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あの日の言葉

 いつかの雑談。

(――――)


「ねぇ、人って、何で生きるのかな?」


 ()()はそう言って、屋上の手すりに体を預けた。


『……抑圧とか苦しいことに抗うためなんじゃないかな』


 僕はそんな風に答えて、見慣れた景色に目を向ける。


「抗うぐらいなら、諦めればいいのに。無理して生きても、苦しいだけじゃない?」


『……死ねないからね。生きづらくても、どうにかして足掻くしか僕らには出来ないから』


「格好いいこと言うね」


『そうかな?』


「もし私が死んだら、悠斗はどうする?」


『んー、泣くんじゃないかな、一応』


「何その適当な答え」


『たぶん泣くよ。よく分かんないけど』


「私がいなくなって、悲しいからってこと?」


『どうだろ。その時の気持ちによるかな』


「へー」


『君に貸した150円が戻ってこないことを思い出して泣くかもしれないし、これからは君にこうやって付き合わされなくて済むことに泣くかもしれないし、少しは感傷に浸って泣くかもしない』


『僕が、結の死を本当の意味で悲しむのは、たぶん、そこにいたのが、君に傷つけられた僕だった場合じゃないかな』


「どういうこと?」


『僕がもし、結に二度と消えない傷をつけられたなら、きっと僕は、傷が痛むたびに君を思い出すよ。君が死んでからもずっと。僕が死ぬまで永遠に』


「……なんかキモイね」


『だろ? だから結は、僕を傷つけないくらいに信じてよ』


「信じられた分だけ傷つく、みたいな?」


『そんな感じ。深く関われば関わるほど、分かれた時の痛みは強くなるんだよ。好きな人が死んだとき、自分も死にたくなるものだろう?』


「分かんないや。人を好きになったことないし」


『僕も』


「なんやねん」


『……でもさ、生きることと同じぐらい、人を好きになることも辛いらしいよ』


「ふぅん」


『いっそのこと死んだ方が楽かもね。悩まなくていいし』


「死にたいの?」


『別に。死ぬほど良い世界じゃないよ』


「……へぇ。普通、逆じゃない?」


『退屈でどうしようもないけど、今死んだら、僕はこの世界に負けた気分になると思う。意地っ張りだから』


「じゃあ、もし私が、死にたいぐらいこの世界を好きになったら、悠斗はどうする?」


『そうだね……。君だけ死んでも暇だろうし、僕も結と一緒に死んであげるよ』


「怖いこと言うなぁ。心中ってやつ?」


『間違いじゃないかも。でもまぁ、この世界を好きになることなんかないと思うよ。少なくとも僕は』


「……じゃあ、私がいつか、君を笑わせてあげるよ。そしたら、ちょっとは好きになれるんじゃない?」


『人の心配するぐらいなら、自分のこと考えたら?』


「そうかも」


『……結も、何か見つけられるといいね』


「……うん」


『…………』


「ねぇ、悠斗――」


『ん?』


「何でもない。……そうだ、最近、聞いた話なんだけどさ――」



 ――彼女は、あの日、何を伝えたかったのだろう。もう、あの声は聞こえない。けれど、少しだけ、今の僕には分かる気がした。

 

 ――僕も、同じことを考えていたから。

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