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聞かなければいけないこと

 ずっと思っていたこと。

(7/30 23:10)


 静かな潮風が吹きさらす中、俺と()()は高校の屋上で向かい合っていた。


 ――秋園。


 俺の知り合いにして、俺が呼び出した人物。彼女は明らかに不満な顔で、錆びた扉を背にして立っている。真面目な彼女らしい。深夜に呼び出されたことにイラつきながらも律儀にここまで来てくれたのだろう。


「……で、何?」


 俺は、その問いにすぐには応えず、ゆっくりと辺りを見回す。何もない静かな場所。吞み込まれそうな闇と、空を照らす光との境界線。ここは、()()()()場所だ。あいまいで、不安定。けれども雑念はどこからも来ない、隔絶された自分だけの世界。今、少しだけ、この屋上の良さが分かった気がした。


「結のお母さんから聞いたよ。秋園、()()()、あいつに電話を掛けたんだってな」


「それがどうかした?」


「あんた、結と仲良かったのか?」


「いや、別に。というか、葛原も知ってるだろ。私があいつのこと、嫌いだってことぐらい」


 あぁ、知ってる。厭になるほど聞かされたよ。……だから、気になってたんだ。


「……秋園、お前は何で電話なんか掛けたんだ? 憎むほど嫌いな奴にそんなことするか、普通」


 同じクラスでもなければ、友人でもない。それなのに何故、わざわざあの日に結と話そうと思ったんだ? 香苗さんから話を聞いた時からずっと思っていた。秋園のその行動には違和感しかなかった。そして――一つの考えに思い至った。


「あんたはあの日、何をした? 結と一体何があった?」


 ここで彼女に問わなければ俺は『答え』を見つけられない。目前に答えがあるのに、ずっと迷い続けるのは御免だった。だから問う。言葉を突き付ける。


「あんたが、結を殺したのか?」




(7/30 23:15)


「…………」


 静寂が二人の間を流れる。長く重い、息が止まりそうな沈黙。決定的な質問だった。素直にして明快。分かりやす過ぎるほどの問いかけ。

 秋園の答えがYESならば、俺はどう思うのだろう。彼女の答えがNOならば、俺は何を言うのだろう。どっちにしても、これから俺がどうするかは、考えずとも分かった気がした。答えなんか探さずとも最初から決めていたことだから。


「……私は」


 空気が張りつめたのを感じる。聴覚の全てがその一言を聞くために、邪魔な雑音の全てをかき消す。

 彼女の口がゆっくりと開く。その口から言葉が漏れ出す。


「私は……やってない」



「これが聞けて満足か?」


 秋園は、人を馬鹿にするような表情でこちらへ語りかける。憎まれても、怒鳴られてもしょうがないことだ。俺は一度でも彼女を人殺しだと疑ったのだから。殴られる覚悟はできている。疑うというのはそういうことだ。


「お前、最初から気付いてたんだろう? 私が殺してないことを。……言えよ、本当に聞きたいことを。私を呼び出した理由を」


「……はっ」


 何もかもお見通しだったらしい。聞き方が悪かったのだろうか? いや、ただ単に俺が嘘をつくことに技術がなかっただけだろう。

 ……彼女の言う通りだ。秋園に聞くまでもなく、彼女が何もやってないことなんて分かりきっていることだった。理由や証拠は特にない。ただ、彼女がそういう人間でないと思っただけ。


「結はあの日、あんたと何を語った? 俺はそれだけが知りたい」


 秋園が結に電話を掛けたと聞いた時から、結が最後に遺した言葉のことが気になってしょうがなかった。けれど、普通に問い質しても、彼女は答えなかっただろう。自分が電話を掛けた相手がその日に死んだと知っていれば、誰にも関係者と思われたくないだろうから。

 だから、こんな回りくどい方法で俺は聞いた。屋上ならば誰もいないし、少しは本心で語れるはずだと思った。


「……頼む」


 彼女には悪いことをした。でも、そうでもしなければ、結の言葉は聞けなかっただろうから。

 秋園は、少しの間黙った後、何故か少し笑ってポツリと言葉を漏らす。


「……二人揃って、おかしいカップルだね、ほんと」


「……え?」


 俺の疑問に答えないまま、彼女はゆっくりと、それでいて重みのある声で語り始める。……その瞳に、怒りとも悲しみともいえない、複雑な色を湛えて。

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