あの場所へ
行きつく先は同じ。
(――――)
あの日以来、私の人生は『好調』だった。部内の練習試合では、一つ年上のキャプテンを圧倒的に打ち倒し、今まで苦手だった技も、自分でも驚くほど決められるようになった。県内の公式戦でも初めて個人優勝を成し遂げたし、全国大会でも、もちろん勝つつもりでいる。その技術も今の私には確かにある。努力が、実ったのだ。
……あいつがいなくなったのも、モチベーションが上がるのに繋がったのだろう。才能だけを頼り、少しの鍛練も積まなかった結果、何一つ確固たるものも掴めず、無様に死んだあの女。滑稽だ。腹が痛くなる。
確かな努力が着実に成果へと結び付き、誰からも認められ、同時に切磋琢磨しあえる人生。それが、私の望んでいたもの。この結果が私の描いていた理想。――そのはずだった。
願っていた。求めていた。それなのに何故。何でこんなにも、私は笑えないんだ?
やっと掴めたはずなのに。これが正しい人生のはずなのに。少しだって喜びは沸き上がってこない。ずっと頭からあいつの言葉が離れない。脳裏にこびりついたように、私を次第に追い詰めていく。
死んだ人間の言葉なんて忘れてしまえばいいのに。亡霊の戯れ言だと割りきるべきなのに。
そして私は、再びあの場所へ行く。
あいつが死んだ、あの場所へと。
(7/30 23:05)
人々が寝静まる夜。人気のない学校の屋上で俺は、夜の闇に浮かぶ星空をぼんやりと眺めていた。
綺麗だった。真っ黒なキャンパスに散りばめられた宝石が自ら光を放つ様は、自ずと風の音を掻き消し、静寂を作りだしている。
……余談だが、俺は昔から静かなところが好きだった。理由は単純だ。「人が苦手だったから」。それだけ。小学校に通い始めた頃から、何一つにも関心の持てなかった俺には、「共感する」という感情が欠けていた。だから、誰とも本心から笑いあうことは出来なかったし、他人の気持ちが分からなかった。
そう、俺は逃げたのだ。誰もいない場所へ。退屈だけれど、何も考えなくていいところへ。そして、逃げた先には――『彼女』がいた。
「…………」
俺の回想は、後方から聞こえてきた、重く、軋むような開閉音によって遮られる。
……やっと、来たようだ。
振り向くとそこには、俺の呼び出したある人物が立っていた。
――さて、俺の物語ももう終わる時間だ。
けれど、最後に一つだけ聞かなければいけないことがある。
彼女が死んだ『あの日』のことを。
俺の思い付く、たった一つの疑問を。
答えは、ここにある。