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第一のヒーロー見参! その名は『特務警察ホイッスル』! 後編

改めて、何をやっているのだろうか自分は。マサヨシは、見得を切った後に後悔していた。

 誰もが正義の味方など知らないこの世界で、正義の味方であると名乗る変な格好をした男が、治安維持を担当している騎士団の前で名乗りを上げる。

 暴漢二名も、何が何だか、と呆然としていた。既に鎮圧は完了していると言っていいのかもしれない。

 顔が見えないようにマジックミラーになっているヘルメットの内側では、マサヨシは恥じらいで顔を染めていた。


「……」

「……」

「……」


 しばらく、ポーズを決めたマサヨシを中心に、誰もが沈黙に包まれていた。

 目の前に現れた異物を前に、誰もが困惑しているのだろう。

 そして、必然的に一番最初に行動したのは、このままだと正気に返った戦闘のプロ二人にボコボコにされる『特務警察ホイッスル』だった。


「暴徒鎮圧用非殺傷兵器、超指向性サイレン!」

「「んぎゃああああああ!!!」」


 特務警察ホイッスル。その番組のヒーローは『宗教によって洗脳された暴徒を鎮圧』するための非殺傷兵器を装備している警察官、という設定である。

 そして、当然それを忠実に再現している今の『彼』は、使用しても誰も死なず、後遺症も残らない鎮圧兵器を発動させていた。


「な、なんだ?! 呪いか?!」


 周囲の野次馬も騎士団も、何故冒険者二人が耳を抑えて苦しんでいるのかわからない。

 ホイッスルの両肩に取り付けられた暴徒鎮圧用スピーカーは、射程距離、方向、範囲を極めて精密に調整できる『不快音波発生装置』である。

 端的に言えば人間が不快に感じる音を聞かせているだけなので、二人が死ぬことはないし、周辺の民間人には一切影響を与えない。

 日本ではケンカの一つもしたことがないホイッスルをして、遠慮なく使用できる兵器だった。


「大人しく、騎士団に捕縛されろ!」

「「ぎゃあああああああ!!」」

「おい、聞いているのか?!」

「「ぎゃあああああああ!!」」

「……ああ、聞こえていないのか」


 しかし、このままでは相手をのたうち回らせるだけである。もちろん、騎士団の増援を待つという意味では正しいが、それは流石に見ていて不快だった。

 逮捕を勧告したのだが、生憎と双方が騒音によって耳を抑えており、降伏勧告を聞く余裕も答える余裕も失っていた。


「オフ……おい、聞こえるな? 大人しく、法の裁きを受けるがいい!」

「……ふ、ふ、ふざけんな!」

「ぶっ殺してやる!」


 普段は人ならぬ怪物と戦う冒険者である。今回ほど不快な音は初めてだったが、恐ろしい叫び声をあげる魔物も珍しくない。

 この程度で屈するようなら、ここまで強力な冒険者にはなれない。彼らは屈服ではなく怒りに燃えて、己の武器を手に立ち上がっていた。


「暴徒鎮圧用非殺傷兵器、高精度レーザー!」

「へっ?!」

「ひっ!?」


 ヘルメットに装着されている、小型レーザービーム発生装置から光が放たれた。

 もちろんそのレーザーは、誰もが想像するような兵器を破壊したり、鉄を切断するような代物ではない。

 市販されている玩具と、原理も威力もさほど変わらない、極めて『陳腐』な兵器だった。

 可視光線を収束して、相手の目に当てる。その標準を捕えることだけが非常に高機能なだけと言えるのだが、相手を一時的に失明させるには十分すぎる。

 当然、それは仮に人体に命中しても一切怪我を負わせることはない。目に長時間当たらない限り、一切問題は発生しないのだ。


「て、てめえ!」

「くそ、なめやがって!」


 一時的に視界が奪われた、それでも彼らは屈しない。

 手にした武器を、当たるを幸いに振り回すことはできる。

 それはつまり、周囲にとっては大きな被害をもたらすということだった。


「暴徒鎮圧用非殺傷兵器、粘性発泡接着剤!」


 ホイッスルの両手に取り付けられている発射口から、大量の化学薬品が吹きかけられた。

 当然、周囲の人間からすれば何やら怪しい液体をかけているだけなのだが、酸だとか毒の様な激しい臭いは漂ってこなかった。

 それよりも何よりも、冒険者たちの体が綿で包まれたようにもこもことなっていた。


「な、なんだ、こりゃあ!?」

「ち、畜生!?」


 さながら、蜘蛛の糸で巻き取られたがごとく、であろう。

 かろうじて頭だけは無事なものの、冒険者二名は黄色い接着剤によって体が拘束され、地面に転がっていた。

 武器を掴んだままではあるが、それを振るうことはできそうにない。

 それはつまり……。


「鎮圧完了!」


 あくまでも暴徒を捕えることを『任務』としている彼にとっては役割が終わったことを意味していた。


「騎士団の皆さん、お仕事ご苦労様です!」


 日本の警察式で敬礼をし、ポカンとしていた騎士団に挨拶をする。

 その上で、拘束している彼らの事を任せようとしていた。


「は、はぁ……」

「彼らの拘束は完了しました、彼らに散布した接着剤は、長時間放置するか軽く火であぶれば脆くなり、簡単に洗い流せるようになります」

「え、ええ……」

「ですので、私の作戦は終了です! お騒がせして申し訳ありませんでした!」


 このまま、勢いで押し切ろうとする。

 とにかく、誰も傷つけることなく暴徒は鎮圧された。それで十分である。

 これ以上長居すると、相当面倒なことになりかねなかった。


「それでは、失礼いたします!」


 変身アイテムを兼ねる笛を吹き、野次馬たちを追い散らしながら帰ろうとする彼を、騎士団は正気に戻って呼び止めていた。


「お、お待ちください! ご協力には感謝しておりますが、お名前だけでも!」


「私は、人々の暮す平和な街。その日常を守るために、治安を乱すものを倒す正義の戦士!」


 そう聞かれたならば、こう答えるしかない。


「特務警察、ホイッスル!


 再び見得を切って、勢いですべてをごまかしながら『彼』は人通りのない道を目指して足早に去っていった。



「ぶはああああ……」


 自室に戻ったマサヨシは、気を抜きながらベッドで横になっていた。

 正義の味方の格好をして、明らかに迷惑をかけている悪漢を鎮圧し、それを現地の警察に引き渡す。

 それが、とんでもないほどの達成感と羞恥を引き起こしていた。

 なんで自分はあんな恥ずかしいことをしてしまったのだろうか、という後悔と、悪い奴をやっつけてすっきりしたという達成感を得ていた。


「いかんいかん、止めだ止め」


 その一方で、元は社会人だったが故の危機感が彼に笛をしまわせていた。

 こんなこと、二度も三度もやるモンではない。一度は上手くいったが、二度目が上手くいく保証はどこにもない。

 一度なら騎士団も『変な奴がいるな』と見過ごしていただろうが、頻発すれば本格的な調査をしても不思議ではない。

 そして、疑われるのは余所者の自分だった。


「まあ……この『力』で人を殺しちゃあ格好悪いしな」


 言い訳をするわけではないが、特務警察ホイッスルは人を殺すための武器を一切持っていない。もしかしたら、何かの間違いで殺してしまうかもしれない武器はいくつかあるが、今回は使用しなかった。

 粘性発砲接着剤は鼻や口に入れば窒息死の可能性もあったが、その場合は専用の人体に無害な分解液を使用するだけで良かった。

 ともあれ、マサヨシは『正義』とは程遠い小市民である。

 小市民故に自制が効かず、苛立ちを無関係の相手にぶつけてしまったが、冷静になれば自分が危ないことをしたという自覚もわく。


「いかんいかん、癖になると洒落にならん」

 

 物語の『お約束』を抜きにしても、常習犯の手口もニュースを見れば素人でも知れる。

 つまり、一度始めると中々歯止めが効かないということだった。


「いい年して、正義の味方ごっこなんて、恥ずかしいもんな」


 正義の力を持った笛、『特務警察ホイッスル』の変身アイテムを他の五つが収まったケースに入れる。

 これでいい、これでいいのだとごまかして。

次回予告!


 ダンジョンに潜り、生計を立てる冒険者たち。

 常に危険と隣り合わせの彼らを、不測の事態が襲う!

 巨大なモンスターに囚われた、ベテラン冒険者。

 彼を助けてと乙女の声が響いた時、正義の魂が再び燃え上がる!


影に潜む第二のヒーロー! その名は、『機動隠密シイクレット』!


 異世界よ、これが正義だ!

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[一言] かがくの ちからって すげー!
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