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第七のヒーロー誕生! 目覚めよ正義の魂! 起

 悪は去った、人々の生活に平穏が戻った。めでたしめでたし。

 という安陳腐な結果になるわけもない。確かに人々の暮らしは平穏を取り戻したが、多くの騎士達がその状況を調査しなければならなかった。

 何事も無くて良かったね、と笑い合えるのは民衆だけである。必死で自国領を守ろうとした騎士団は、到着する予定の援軍に『なんかよくわからんけど、なんかよくわからん奴が解決してくれました』という意味不明の報告をするしかなかった。

 そして、現場の調査をしに来た者たちは確認して絶句する。周辺一帯が、高温で焼かれた反物質爆弾の残り香から、戦闘の凄まじさを理解するのだった。


「しかしまあ……この芝居道具みたいなもんであんなことができるとはなあ」

「店長、それは言わないでください」


 結局、唯一マサヨシの事を知っている店長だけが、営業後に酒とつまみをもって話をしに来ていた。

 六つの変身アイテムは、純然たる事実として芝居の小道具であることは否めない。

 まあ正しく言うと玩具として発売することが前提の、芝居の小道具の、更に『本物』というわけなのだが。


「けどよ……結局お前さん、霞の女王を倒しちまったんだな」

「ええ、結構ぎりぎりで……体が痛いです」

「魔王を倒した感想がそれかよ……もっとこう、ないのか? 普通の英雄ってのは、自分の武勇伝は雄弁に語るモンだろう」


 そういうことを期待されても困る。

 別に喧伝するつもりはないだろうが、酒が入っていることもあってヒーローを独占している店長は話を聞きたがっていた。

 それは理解できる感性だが、そう言われても困るのだ。正直、ほとんど覚えていない。

 そもそも、反物質爆弾を使用した云々を事細かく説明したくない。


「俺は、このアイテムを使っている時、なんて言うか……歴戦の勇士みたいに振る舞っちゃうことがあるんです」

「……この変な小道具でか?」


 アンタはこんな玩具を欲しがって!

 と男の子の気持ちを理解してくれないお母さんのようなことをおっしゃる店長。

 その気持ちはわかるが、事実だからしょうがない。


「その道具は、俺の故郷では伝説の勇者が使ってた道具でして……どうやら、その勇者の信念と一致した時は凄く自然に力を使えるんです」

「なんでお前がそんなもん持ってんだろうなあ……」

「本当ですよ……」


 店長も根が一般市民なので、マサヨシに同調する。

 本当に意味が分からない、この道具を持つ資格とか以前にこれが此処にある理由がわからない。


「しかしまあ……この道具を使っている間は勇者に憑依されるのか……。これからはずっと霞の女王にとりつかれるんだからお前も大変だよなあ」

「……あの、店長? 済みませんけど、どういう意味ですか?」


 魔王を討ち取ると呪われる、と言われた。

 しかし、彼女は自分へ呪いの言葉を吐いているようには見えなかった。

 現時点で、まったく体調不良もないのだが。


「何って……呪われるって話だよ。魔王を倒すってことはそういうことだって言っただろう?」

「……あの、呪われるって具体的にはとりつかれるってことなんですか?」

「そうに決まってるだろうが」


 てっきり、状態異常程度だと思っていたマサヨシは青くなっていた。よく考えてみれば、魔王に呪われるとは相当不味い事なのではないだろうか。

 とはいえ、魔王を討つことは勇者になるということだと言っていた。そのまま死ぬとは一言も言っていなかった。

 少なくとも、今すぐ死ぬとかそういう話ではないらしい。


「俺も詳しいことは知らないけどよ、今日あたり夢に出るんじゃないか?」

「本当ですか……」


 げんなりしてしまう。

 どうやら本当に、自分の選択はどちらを選んでも苦痛を伴うものであったらしい。



 結局、マサヨシはその晩夢を見ていた。

 夢を見ていたというか、明晰夢をみていた。

 あるいは、そういうものを通り越して精神世界と言ってよかったかもしれない。


「アニメじゃないんだから……」


 自分がない面と向き合っている状況で、マサヨシはそう愚痴った。

 まさか三十を前にして、こんな状況に陥るとは思っていなかった。

 多くの事を人生で初体験しすぎだと思う。それも、不要なことを。


「いるんだろう、さっさと出てこい。ホラーじゃないんだ、こっちを驚かせるな」

「あらあら、もうちょっと付き合ってくれても良かったのに」


 自分の背後に、彼女が現れていた。

 既に倒した、霞の女王。その彼女が、健在な姿を示している。

 相変わらず扇情的で下品な姿だが、それでも幾分か恐怖というものが減少していた。

 なんというか、倒したから自分のとらえ方が変わったのかもしれない。


「あらあら、熱視線ね。火傷してしまいそう。自分を倒した勇者に情欲の目で見られるなんて、魔王冥利につきるわ」

「……俺はお前を殺すことで、お前に呪われた。そうだろう?」

「ええ、その通り。貴方は私を討ち取った。だからこそ私は貴方を呪った」

「迷惑だ、成仏しろ」


 もしくは、地獄に落ちて欲しいところだ。自分に取り付くなど、本当に勘弁である。

 夜ぐらい、きっちりと眠らせて欲しいところだ。


「……意外ね、私という上位の魔王を討ち果たしたことを喜んでいると思ったのに。こんないい女に呪われたら、嬉しくないの?」

「何の話だ」

「……ああ、そういう。なるほど、それじゃあ貴方は……本当にただ私を、うふふふ」


 訳知り顔で笑う霞の女王。

 それが不気味ではあるが、マサヨシとしては本当に勘弁してほしいところだった。


「ねえ、勇者様。角がない方がいいかしら、それとも羽や尻尾もない方がいい? 私はある方が美しいと思うけど」

「強いて言えば、積極的過ぎるのは駄目だな。あとは……」


 自分は拾い物の道具で彼女を殺した。そういう意味では、呪われても仕方がない。

 しかし、それでも自分は彼女を憎むのだ。


「俺は忘れていないぞ、お前が貧民街にモンスターを放ったことをな」

「あらあら、貴方は本当に格好いいわねえ」

「そんなんじゃない。セイギの味方だからでもなんでもなく、貧乏な連中を病気にして喜んでる奴を善良な一般市民は好きにならないんだよ」


 彼女やその手勢が今まで何をしてきたのか。それに興味がないわけではないが、はっきり言えばどうでもいい。

 少なくとも確実なことは、彼女を嫌いになるだけの具体的な話を既に知っている。それは偏見でもなんでもない。ただの事実だった。


「俺は、お前が嫌いだ」

「私は貴方が大好きよ、私の勇者様」

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