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第五のヒーロー『蹂躙無双マルス』! 死ぬのは奴らだ! 結

 特撮番組やアニメで特有の、よくある危険な兵器。

 設定上恒星と同規模のエネルギーを持っているとか、惑星を破壊するとか、そういうフレーバーテキスト。

 当然、最高の火力を持つマルスも設定上は凄い武器を持っている。その最たる例が、最終兵器『対艦反物質弾頭ミサイル』だった。


「酒場で皿洗ってる男が、大国の大統領みたいなことしていいんだろうか……」


 今も逃走していたモンスターが接近しつつあり、加えて魔族からの攻撃は衰えを見せない。

 それでも考え込んでしまう。設定上は環境に悪影響を与えないとしても、物が物である。

 無学な社会人でも、存在ぐらいは知っている反物質爆弾。

 よくフィクションでは登場するのだが、実物はまだ存在していない。まだ存在していないというだけで、原理的には存在するとされている。少なくとも、ワープだとか光速移動だとかに比べれば、大分現実的であるらしい。

 だからこそ、そんなもん使っていいのだろうか。なんか原理もよくわからない『凄い魔法』じゃダメなんだろうか。


「番組ではただ爆発しているだけだったけども……!」

『警告、警告、このまま攻撃を受け続けると危険です』

「ああ、そうだろうとも! 最終防衛兵器、発射準備開始!」

『了解、発射シーケンスに入ります』



「どういうことですか、アレは!」


 草原の先で、何かが戦っている。

 望遠鏡を覗けば、そこには戦闘用らしい『彼ら』と同じ技術が使われているであろう巨大な鎧が戦っていた。

 遠目から分かるほど一方的に、モンスターを蹴散らしている。

 それを見て、望遠鏡を持っていない者たちも歓声を上げていた。


「数万からなる軍勢が、粉砕されている」

「これは、悪夢か?」

「何とでたらめな……」


 彼らも、一応存在としては大砲を知っている。

 今戦っている『彼ら』の使用している武器が、その延長線上にあるのであろうことはなんとなくわかっていた。

 しかし、その技術がおかしい。どう考えてもぶっ壊れている。

 あそこまで小型化され、あそこまで連射され、しかもあそこまでの威力がある武器など想像したこともない。


「神か、悪魔か……」


 魔族を滅ぼす神にも、人間を滅ぼす悪魔にも成れる力。

 それを個人が、或いは組織が保有している。それは想像もできないことだった。

 あってはいけないことだった。


 無力な一般人は大喜びだが、その一方で冒険者たちのような戦闘能力を持つ者は、或いはこの国を守るべき騎士団はそれどころではなかった。

 ある意味一番恐れた物が、一番望ましい形ではあるが使用されている。

 人を殺さないようにだとか、潜入するためだとか、病魔を駆逐するためだとか、逃げた犯罪者を追跡するとか。そんなことは一切なく、ただ全力で殺しにかかっている。

 利害が一致しない相手を、この世から肉片一つ残さずに消し去るという意思を感じる。

 おそらくこの街に牙をむけば、門をぶち破るどころか壁さえも粉々に粉砕するだろう。騎士団も民衆も、大差なく消滅させるに違いない。

 現時点でさえ、そう思っていたのだ。


「む……魔族が攻撃を開始したぞ!」

「流石に当たらないか!」

「如何しましょう、我らも援護位は……」


 魔族の動きを止めることができれば、あの大砲を当てることができる。

 それは客観視している自分達でもわかることだった。

 どうやらあの『彼ら』は、着込んでいる鎧の分厚さも相当らしく、まるで魔族の攻撃にひるんでいない。

 しかし、モンスターたちも集結しつつある。このままでは危険だった。

 確かに『彼ら』は危険だが、その力を失うことは更に恐ろしい。

 自分達を守るために戦っていることに疑いはないし、何故か周辺に他の『彼ら』はいない。

 であれば、自分達もあの戦場へ赴いて……。


「な、なんだこの音は?!」


 離れた街まで届く、機械からの警報音。

 その音の意味は分からずとも、誰もが尋常ならざる事態だと察することはできた。


『警報、警報! これよりこの機体は、最終防衛兵器を使用します。周辺の皆さまは、至急頑丈な建物に避難するか、その場で姿勢を低くして、目を閉じてください。周辺環境への汚染被害はありませんが、熱風などが予測されます』


「退避ぃいいいいいいいい!」


 今の今まで、ありとあらゆるものを粉砕していた『彼ら』。その彼らが、危ないから逃げてと叫んだのだ。

 それが何を意味するかなど、誰も考えたくなかった。

 サンデー王女の指示を聞くまでもなく、マルスの放った周辺への警告は正しく機能して、誰もが城壁から飛び降りて町の中へ逃げ込んでいく。

 その彼らの背後では、上空へ向かって白い煙と共に上空へ舞い上がっていく円筒形の物が、ゆっくりと落下してそのまま……地上近くで『太陽』になっていた。



「……撃っちゃった」


 緊急用地対地爆弾によって掘り起こした地面に潜り、そのまま頭上へ防御を固めたマルスは、上空で周辺を焼き払うミサイルを起爆させていた。

 原理上、最も高いエネルギーを生み出す反物質爆弾によって、小型ミサイルとは思えない馬鹿火力が周辺を焼き尽くしていた。

 当然、直撃を免れた魔族もその高熱で息絶えている。彼女たちが逃げ切れる範囲に行く前に爆破したが、しかし最後まで逃げなかったようだ。


「凄い火力だったな……」


 復帰したセンサーで、周辺を確認する。

 ヒーローのフレーバーテキストがそのまま再現されただけに、周囲にはもはや焼死体しか残っていない。

 穴から出て背後を見れば、モンスターに襲われていないはずの街の壁が、大嵐を受けたように少し崩れている。


「撃っちゃったよ、反物質爆弾」


 草原が、丸裸だった。

 火事になることを通り越して焼失した草原は、もはや命を残していない。

 ここで生息していた雑草も虫も、有象無象ごと焼き払っていた。

 コックピットの中で、手が震えている。

 余りにも重いセイギを行使したことで、完全に心が処理能力を超えていた。


「……まあ、いい。良くはないけど、仕方がない」


 コックピットの中にある、最終兵器の発射キー。それをひねったことで、街は救われた。それでいいのだ、他の事は考えなくていい。

 手段はともかく、結果は事前に分かった通りだったのだから、それでいいのだ。


「はぁ……」

『―――警告』


 終わったと思った。

 反物質爆弾は彼が思った以上の破壊をこの世界にもたらし、結果としてすべての終焉を確信させていた。

 しかし、まだ終わっていなかった。


『上空から、動体反応が接近してきます』

「……外部マイク、オンにしろ!」

『了解』


 まだ残っている敵がいるのだとしたら、それはもう一体しかありえない。


「あらあら、凄いわねえ」


 周辺の音を拾うセンサーではなく、マサヨシの耳に直接音声が聞こえてきた。

 それは、蠱惑的すぎる女性の声だった。


『お前が親玉、霞の女王だな?!』

「その通りよ、大きい声の勇者様」


 モニターに映った女性は、何とも言えない美しさを持った『悪魔』だった。

 上品に、優雅に。今の破壊を見てなお余裕を持った怪物は、先ほどまで周囲にいた魔族と同種であり、上位種であることが見て取れる。


『何故、街を襲った!』

「面白そうだからよ、実際面白いことになったわね」


 反物質爆弾を、花火か何かのように思っているのだろう。

 それが自分の軍勢や側近を焼き尽くしたことを、憶えてもいないようだった。


『な、何様だ! ソシャゲーの悪魔みたいな風体しやがって!』

「あらあら、怒っちゃって怖いわね。でもそんな激しい貴方も大好きよ」


 残る敵は一人。しかしその一人は単独で街を焼き払える、逃せない一人だった。

 彼女に自分が負ければ、どうなるかなど分かり切っている。

 ふさわしい相手がいれば地面に降り立つというが、その気はあるのだろうか。


「それで、どうするの? その玩具で、もう一度スゴイのを出す?」


 ただの事実として、不可能だった。

 対艦反物質弾頭ミサイルは、一発しか搭載されていない。

 もしかしたら、放っておけばその内補充されるかもしれないが、それでもすぐに撃つことはできない。

 そして、それ以外では彼女の下位である配下さえ倒せなかったのだ。


『いいや、今のは一発しか積んでいない。他のだと、アンタを地上に降ろして突っ立たせないと倒せない』

「あら、正直ね。でも、ということは……期待していいのかしら?」


 マサヨシは、あるセンサーを凝視していた。

 即ち、周辺の温度センサーである。

 反物質爆弾によって上がった周辺の温度が、下がるのを待っていたのだ。


『ああ、保険は準備してきた』


 前回使用したティンダロスは、非常に面倒な変身プロセスを取る。

 まずライダースーツとヘルメットをかぶり、その後でヘルメットのスイッチをおして『メット・オン』と叫びようやく変身ができる。

 ヘルメットやライダースーツの模様が変わってわずかに変形し、それによってティンダロスとなるのだ。

 よって、ティンダロスの変身アイテムはヘルメットとライダースーツであり、一番傘待っている。


 対するに、マルスの場合はスーツが巨大な戦車であり、それを呼ぶためのバッチが変身アイテムとなっている。ティンダロスのそれと違い、この世界でも持ち運びが容易な代物だった。


「……コックピット、オープン」

『外部の安全は確保されていません』

「いいから、開けろ」

『了解、コックピット、オープン』


 熱気の残る外気を浴びながら、マサヨシは立ち上がったままのマルスから出る。

 その上で、敵に対して初めて素顔を晒していた。その表情に、先ほどまでの迷いはない。

 目の前に、打つべき敵がいる。手の中には、倒す為の武器がある。

 シンプルな状況に、マサヨシは奮い立っていた。


「あら、意外と可愛いわね。顔を見せてくれてありがとう。てっきり照れ屋なのかと思ったわ」

「俺が顔を見せたのは……お前を確実にぶっ殺すためだ」

「あら、素敵!」


 ホイッスルは笛で変身し、シイクレットは腕時計で変身し、ライフワンは印籠型のアイテムで変身する。それらは、設定上アイテムの中にスーツが入っていることになっている。


「……起動! 時限決闘鎧!」


 変身アイテムを複数持っておけばよかった。果たして今まで何度そう思ったことだろう。

 そして、マルスとライコウの変身アイテムは、同時に持っても何の問題もない。

 最後のヒーロースーツを召喚する、『指輪』が輝いた。

 するとどこからともなく、マルスほどではないが巨大な鎧が出現する。


「必勝剣ライコウ!」


 既に人の形をしているそれの前部分が開き、マルスから飛び降りたマサヨシを格納する。

 それは、正しくパワードスーツだった。

 マサヨシを完全に包み込んだ、第六のヒーロースーツは、その相貌を緑色に輝かせる。


「レディ……」


 肘、大腿部、背中。それらに取り付けられたスラスターが輝き、全身に配置されたバーニアが火を噴く。

 見るからに重厚なその鎧は、しかしゆっくりと浮き上がり、そのまま加速しながら上空へ舞い上がっていく。


「ゴぉおおおおお!」


 魔族にとって、人間に対する絶対のアドバンテージ、飛行。

 それを打ち破って接近する決戦仕様のヒーローを、霞の女王は歓喜の笑みで迎えていた。


「貴方は、飛べるのね! なんて素敵な勇者なのかしら!」

「そうとも、今の俺は必勝剣ライコウ! 空を飛ぶセイギの戦士だ!」

 遂に、最強の魔王との戦いが始まった! 霞の女王を倒さぬ限り、この街に明日はない!

 勝つのは英雄の名を持つヒーローか、それとも霞の女王か。

 人間と魔族が、空中で激突する。そのあり得ざる決闘の結末やいかに!


次回!

第六のヒーロー『必勝剣ライコウ』! 幻想空中決戦!


 この街を守るための、『十分間』が始まる。

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