二話
「ちっ」
ドライバーのお兄さんが舌打ちをした。
森の影から鹿が一頭現れる。
「きゃ!!ぶつかる!」
車は減速することなく、コースの右側ギリギリを走り抜ける。
そのまま、右コーナーが迫ってきた。
正面には杉の大木が見える。
鹿を避け走行ラインを大きく外れた車はそのまま大木に突進する形になっていた。
『終わった…お父さんお母さん先行く不幸を…』
人生の終焉を感じた。
車が大きく傾き、目の前の風景が横に滑り出す。
ハーフスピン状態になった車体が、一瞬、後ろに動く。
『何?』
目の前の大木は無くなり、コースの真ん中を車は走っていた。
「驚かせて御免!」
ヘルメットの無線越しにお兄さんの声が響いた。
「何が…起こったの…」
「神岡ターン…驚かせちゃったね…」
「神岡ターン…」
「やべっ…三速死んじゃった…」
「山賊?」
「三速…君、面白い事いうね…」
「はぁ…」
「それより、君、目がいいね、…お陰で助かったよ♪」
「はぁ…」
「腰でも抜けたか?気分でも悪くなったか?」
「大丈夫です…」
「そっか…君…ラリードライバーやれそうだね♪」
車がピットにもどる。
「お疲れ様!」
友人が笑いながら私を迎えてくれた。
私は魂が抜けたように、呆然としていた。