一話
「バイト終わったし、遊びに行かない?」
「こんな田舎の何処にいくのさ?」
「取り敢えず…ドライブとか?」
「山道行ったり来たりの何が楽しいのさ?」
「なんだ知ってたんだ…」
「何が…?」
「ダートトライアルに決まってんじゃん」
「ダートトライアル…汚い三角形…?」
「それはトライアングル」
「えっ?焼酎なら間に合ってますが…」
「…酒の話じゃないし…」
「私はいいや…家でネトゲでもしてるよ…」「そうやってインドアばかりしてると、ヒキニートになっちゃうぞ」
「自宅警備員は時給が安いからする気無いもん」
「時給が出れば観に行く?」
「多少なりとも出れば…」
「…牛丼並…」
「サラダセットで…」「う〜ん…サラダセット付き…」
「ダメなら行かない」
「わかった…牛丼並サラダセット付きね…」
「絶対だからね」
「女に二言はない!」
等と会話していたのは二時間ほど前のはなし
友人と二人でダートトライアルを観戦に来たのだが… 何で競技車両に乗っているんですか…
くじ引きなんてするんじゃなかった。「ヘルメットをしっかり装着して…シートベルトをしっかり締めて…足元にクラクションのボタンがあるから気を付けてください…エキシビジョンだけど結構飛ばすから…」
そうドライバーのお兄さんに説明されたが、私は緊張のあまり半分も理解したいなかった。
『start!yourengine!』会場にこだまするエキシビジョン開始のアナンス、私にとっては死刑執行のアナンスにしか聞こえない…
1850ccターボエンジンが低い唸り声を上げる。
車内は防音材とかなく、ガード下か、道路工事のような騒音が充満する。
目の前の五つのシグナルが全て緑色に点灯し、ブラックアウトする。
全長4メートルにも満たない小さな車は大地を蹴飛ばし、すごい勢いで走り出す。
山の中の林道を改修したコースの中を木々の間を潜り抜けるように疾走する。
乗り心地は最低で、世界最悪のジェットコースターのように、弾み揺さぶられる。振動と騒音の中で私は信じられない事に心地よさを感じ始めていた。
目の前の景色の変化に目を奪われる。
凄い…森が揺れてる…大木が横にスライドして…大地が躍動する。
出来の良いアクション映画のワンシーンのようだ。
一瞬、影のようなものが見えた気がした。
「左!何かいる!」
私は思わず叫んでいた!