処刑
おばあ様は死んだ。
テラも死んだ。
でもそれは二日前の話。
今、私は………………牢屋の中。
暗くて寂しくて冷たい牢屋。
鉄の檻で硬い石床。
だから中には私以外何もいないし、何もない。
別に何も無くても構わない。
どうせ私は明日、貴族殺しの加担で処刑されるんだから。
私は気力が無くなっていたとは言え、殺してないと一度も主張しなかったから、そういう結果に至ってしまったのかな。
でも主張しても無駄な気がした。
だって街に連行されたとき知ったけど、テラは……。
いえ、テリトラは街のみんなから愛されていた。
テリトラが死んだと伝わったと同時に、悲しみに包まれた街。
その愛おしい人物が殺されてしまい、街の人には悲しみと怒りをぶつける対象が必要に感じた。
なら見殺しにしてしまった私が、その対象に適任だろう。
それに私が死ぬことで街の人が憎しみの心を一切持たず、テリトラに冥福を祈れるなら、喜んで死のう。
どうせ、私には何もない。
あるのはペンダントについてるロケットに隠されていた契約書と、屋敷の生活とテラとの思い出。
意外にも両親は契約書を残していた。
気が付いたのは牢屋に投げ込まれたとき。
何らかの衝撃でロケットは壊れてしまい、外れた写真の後ろから小さな紙切れが出てきたのだ。
それが契約書。
こんな手のひらぐらいしかない紙切れのせいで、おばあ様は欲に目が眩み、テラは死んでしまった。
きっと両親は私の幸せのために残したのだろうけど、逆に不幸に陥れしまったのだから皮肉な話だよね…。
私は契約書を破り捨て、ペンダントと一緒に石床へ放置することにした。
もう私には不必要なものだから、気にしないようにする。
テラ………。
……あ、みんなはテリトラって呼ぶけど、私は最後まであなたの愛称で呼ばせて。
それにしてもテラは凄い人だったんだね。
テラの一族にも皇帝と契約書があっただけじゃなく、国を大きく発展させてた有力貴族で、特に貿易に力を入れていたなんて初耳だったよ。
それだけじゃなく、テラ個人だけでも凄まじい功績で、何よりこの街を愛していたんだね。
私、外の世界のことばかりで、テラについての話をあまりしてなかったことを思い出すと、残念に思うよ。
外の世界だけではなく、もっとテラについても知りたかったから。
そんなこと言っても、もう遅いよね。
ごめんなさい。
あぁ…………今日はもう寝よう。
明日からとても長い眠りについてしまうけど。
朝を迎え、私は処刑台に立っていた。
まだ早朝と言える時間帯だろうに、数え切れないほどの大勢の人が集まり、私に罵声を浴びさせてきた。
さらに辺り一帯は人だらけだけど、みんな地下室にいた時のおばあ様みたいな顔をしている。
だから少し恐いけど、大丈夫。
私は大丈夫だよ。
周りから嫌われようとも、脅されようとも、迫害されようとも、私の心の中にはテラがいるから。
そう信じてる。
でも、おかしいの。
今になって涙が溢れて止まらないの。
死が恐いわけじゃないのに、泣いてしまう。
不思議だよね……、テラ。
私は一歩踏み出した。
目の前には、頭がちょうど入る大きさの輪が作られた縄がぶら下がっている。
これに首を通せば床下が抜けて、私は宙吊りにされて死ぬ。
テラが死んだのだから、私も死なないと……。
テラが死んだ……から。
…死んだんだ、テラは。
もうテラは本当にいないんだ。
いない……、テラは………いない。
私はテラが死んでいなくなってしまったのを思い出し、再び悲しみに浸った。
突然、胸が潰れそうな辛い気持ちが込み上げてくる。
涙が溢れる。
私は悲しみに我慢できず、空へ向かって大声で叫んだ。
「テラ、何故あなたは死んだの!?何故あなたが死ななければなかったの!?私はもっとあなたと一緒に居たかった!だから死ぬなんてあまりにも酷い!外の世界なんてどうでもいい!だから私と一緒にいて!私を悲しみの淵から救いだし、笑顔にさせて!私にはあなたしかいない!あなただけが必要なの!あなたがいなければ私は………私ぁ…幸せになれないの…!私はあなたを……愛していたっ…!今もずっと…これからも!!私はテラを愛している」
最後の一言で罵声がより一層酷くなったけど、私はそんなのは気にせずに空を見続けた。
でも、次第に………溜まってきていたものが溢れてくる。
「うぅ……ぁ!テラっ……!!うわぁぁあぁぁぁあぁ……!ぅぁぁああぁぁああぁあぁぁぁあああ、うわぁぁああぁあぁあぁあぁぁぁあぁあぁああぁぁぁぁあぁぅっ…!!!テラぁぁ……!」
私は泣き崩れた。
悲しすぎて視界が全て涙で覆われる。
もうテラの名前を呼ぶので精一杯。
それでも何とか力を振り絞り、声を無理やり殺して私は立ち上がる。
最期にテラに笑顔を見せてあげようとしたけど、作り笑顔ができない。
やっぱりテラがいないと、本当の笑顔なんて無理だよ…。
そして間もなくして私は首を吊った。




