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悪意の終幕

それでテラに近づけたと思ったら、おばあ様が私の服を掴み、今度は短剣の柄で私の頭を全力で殴ってきた。


「きゃぁ!」


鋭い痛みと共に、私はまた尻餅を着いた。

頭から血が流れるけど、おばあ様に叩かれたのも気にせずにテラに手を伸ばす。


「いやぁ……!テラ、死んじゃ駄目だよぉ…!」


でも差し伸ばした腕はおばあ様によって掴まれ、テラに届くことはない。

そう、届かない。

私の手は、テラに触れることすら叶わないんだ。

それが分かってしまった私は、更に涙がボロボロと流れた。

もう涙は止まらない。

テラが笑顔を見せてくれるまで、私の涙が止まるなんてことはない。


「言っておきますが、お嬢様が答えない罰ですよ。邪魔はしないでください」


視界には全く入ってなかったけど、きっとおばあ様は最高で最悪の明るい笑顔を浮かべて言っていただろう。

だってその後、おばあ様は…………。


「あっはははっ…!よく見てください、お嬢様!あなたが素直にならないから、この迷い人はこんなにもみっともなくて面白い姿にされてしまうのですよ!人間なのに人間の姿では無いなんて、最高に笑えますね!あっははは、ひゃはははぎゃははははぁははっ!!!」


今までと比べものにならないぐらいの楽しそうな顔で、テラの顔と腹部を短剣で裂いて、内臓をえぐり出していたんだもの。

テラには、もうテラという特徴は何も残っていない。

短剣はテラの顔面を頭蓋骨まで綺麗に裂いていて、鼻や耳は削がれしまい、頭だけでも十数回も刺されて顔が潰れ、えぐれてしまっていて人の顔なのかすら分からない。

腹も似たようなものだった。

数十回も腹部や胸を刺していて、丁寧に腹を切り開いて、わざわざ心臓と内臓を取り出していた。

おばあ様は完全に精神が異常だ。

そしてそれを平然と見ている私も………異常なのかな。

テラを意味もなく解剖をしていたおばあ様は、私が静かになっていることに気が付いて手を止めた。


「あまりの楽しさと苛立ちで見苦しい所を見せましたね。まだ意識はありますね?お嬢様」


私は反応できない。

当たり前だ。

おばあ様の声なんて耳に入ってない。

そして私の目には何も映っていない。

何も臭わない。

何も感じない。

ただそこにいるだけなんだ。

人形と同じ。


「お嬢様?………あぁ、あまりのショックに逃避ですか。そんな子供だましをしても無駄ですよ」


おばあ様は私の髪を掴み、勢いよく引っ張った。

でも私は痛がる素振りを一切見せず、ただ石の地面へ身を倒しただけだった。


「……苛つかさせないでください、お嬢様。迷い人と同じになりたいのですか?」


「…っ!!!」


それが偶然聞こえてしまった私は、さっきまで廃人のようになりかけていたにも関わらず突如身を起こした。


「いや……!殺されるのは嫌だ…!殺さないで……殺さないで…お願い、殺さないで…殺さないでください殺さないでください殺さないでください殺さないでください…!!!」


テラの最期を見ていた私はとにかく死を恐れていた。

自分がバラバラにされるなんて、当たり前だけど恐ろしくて想像したくない。


「ここまでお嬢様が狂ってしまうなんて……、本当にあの迷い人はとことん邪魔者ですね…。馴れ馴れしくて不愉快な男性でしたよね、お嬢様。どうせ契約書目当てでお嬢様に言い寄ったのでしょうが、そうはさせない。誰だろうが契約書目的なら始末するだけです。契約書は私の物………。誰にも譲らない…!渡すものですか…!」


もしかして、おばあ様がテラを殺したのは私に契約書の場所を吐かせるためじゃなく、契約書を奪われないため?

そんな馬鹿なこと、ありえない。

テラは契約書なんて欲しくなかった。

私には分かる。

ただテラは常に優しさに溢れていたんだ。

だからどう考えても、テラに関してはおばあ様の勘違いだ。


「さて、お嬢様。おふざけはここまでです。さすがに飽きてきましたからね。契約書は………」


おばあ様はそこで言葉を止めた。

何かを感じとったらしく、階段の方を凝視して固まっている。

しばらくして私にも何かを感じとれた。

正確には何かが聞こえた。

おそらく足音。

階段を下りる足音だ。

一つや二つじゃなく、沢山の足音。

一体何なの?


いくら考えても分からず、私とおばあ様は階段から下りてくる何かを待つしかなかった。

けどその何かはすぐに地下室に姿を現したけど、私にはその正体が分からない。

初めに分かったのは、沢山の男性が同じ服を着ているということだけだった。

そして手にはみんな銃剣を持っている。

おばあ様はその現れた男性達に鋭い目を見せつけながら、意外にも冷静に声をかけ始めた。


「あら、街の兵士様達ではありませんか。お出迎えをしなかった無礼をお許しください。それで、こんな所に何の御用が?」


数人の兵士達はテラの死体へ近づき、軍服に何個もの勲章を胸に垂らした壮年の男性が、少し距離を開けながらもおばあ様と会話を始めた。


「ここの人だな。テリトラ・ドン・プレゥイス様が伺っているはずだが、いるかな?」


テリトラ・ドン・プレゥイス?

私には誰か分からない。

でもおばあ様は何か心辺りがあったのか、唇を噛んで一瞬だけ恨めしい表情を見せた。


「いませんよ。それどころか私はその方を知りません」


おばあ様はキッパリと答えたけど、壮年の兵士は顔をしかめる。

そのまま沈黙が流れると思ったけど、テラの死体を調べていた兵士の一人が声を張り上げた。


「隊長!テリトラ様のバッチがありました!紋章も間違いありません!その………つまり、これは…」


次第に兵士の声が小さくなっていく。


「テリトラ様の………死体だと…思われます……」


隊長と呼ばれた壮年の兵士は頭を抱えて嘆いた。

本心からショックを受けているらしい。


「なんてことだ……!」


…テラじゃなく、テリトラ?

フルネームを言わなかったのは疑問だったけど、もしかして偽名だったの?

私が困惑していたそのとき、いつの間にかおばあ様は短剣を振り上げていた。


「隊長!」


「…!?」


兵士の声と同時に、刃物は体に刺さる。

テラの時は違い、血が凄まじく噴き出していた。

でも血を噴き出したのは兵士ではなく、おばあ様。

隊長はおばあ様より素早く、銃剣を首に突き刺していたのだ。

そして私はただ呆然とその光景を見るだけだった。


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