最短ミステリー
やられた。
誰に?
筆者に。
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【解説】
タイトルどおり、最短のミステリーを構成しようと試みた掌編。
論理的にきちんと解けて、ミステリーにおける暗黙の了解からも逸脱しないという前提でどれだけ短く構成できるか、という命題に対する解のひとつとして提示してみました。
まず謎に至るための本文を提示しますが、最低でも一つの文が必要です。これには普通、《主語+述語》の記述が必要ですね。これをもっと短くする方法を考えると、登場人物に語らせる方法があります。そうすれば主語が省略可能です。
こうすると普通は、人物をその場に登場させるために文が必要になってくるのですが、それを「誰だかわからないけど被害者」ということにすれば暗黙的に被害者がいるということを示すことができます。
次に謎です。解答も含め最短にしようとしているので、最も短くなる組み合わせを採用したいです。「どうやって?/○○で。」「何故?/○○だから。」「誰に?/○○に。」と、解答込みでも論理構造的にはどれも最短候補です。ここでは《日本語で》短く書けそうなフーダニットにしてみます。
まだ本文をどうすべきか示していませんでしたが、ここで論理的に正しく解が導けるように本文も決めていきます。
ミステリーの暗黙のルールとして、「犯人は登場していなければならない」というのがありますね。しかし、本文は被害者が(あるいは地の文で)暗黙的に語る、述語のみの一文にしようとしています。これでは人物これ以上絡められません。ではどうするか?自殺?それではあまりにも陳腐ですね。
一方で、手掛かりとして使えるものがもうひとつありますね。《タイトル》です。
タイトルの「最短」という単語がこの掌編の《制約》を示し、「ミステリー」という単語が《論理的に解決可能》を示します。省略可能なところはできる限り省略しているということもヒントになっているということです。
そして、タイトルのもう一つの意味を利用することが考えられます。タイトルの内容ではなく、《タイトルが存在するということ》の意味です。つまり、この文章は《誰かが書いたもの》であり、《筆者が存在する》ということです。
つまり犯人は《筆者》であり、《ミステリー》を実現するための事件を発生させるために被害者は殺される必要があったということです。しかも目的が《ミステリーとして成り立つため》なので誰でもよいのです。
そして、《最短》のために極限まで記述をそぎ落とす必要があり、それを可能たらしめるのが《筆者が犯人》という解なのです。
という考え方で答えが導けるようにするために、本文は「やられた。」と受動態にする必要がありました。自殺ではなく、犯人が他にいるということを仄めかしています。