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  作者: 木下秋
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 彼は二年前、大学を卒業する時期に、ある一つの決意をした。それは、自分は恋人などは作らず、一人で生きてゆくのだということ。それは誓いであり、諦めでもあった。



 就職活動を失敗した彼は大学時代から続けていた書店でのアルバイトを続け、大学卒業後はフリーターとなった。彼自身、それは屈辱だった。真面目さだけが自分の取り柄であると信じていたにも関わらず、普通に就職することすら叶わず、彼は自分自身を責めた。自分が今まで信じていたことは間違いであり、自分は社会から必要とされていないのだと感じていた。フリーターとなってしまった今、自分に社会的な地位はない。将来性はない。――決定的に、経済力がない。彼は就職活動中、ある一つの夢を見ていた。それは自分の両親のようにいつか結婚をし、愛する人との間に子どもをもうけ、幸せな、普通の家庭を持つことだった。


 しかし、フリーターとなってしまった今、彼に一家族を支えるほどの経済力はない。自分一人生かすことが精一杯だった。今年で彼は二十五になる。中学生が彼氏、彼女を作るのとは、訳が違うのだ。よって彼は諦め、誓いを立てた。一人で生き、死ぬのだと。


 彼は無計画に子どもをつくり、不幸な目に合わせるような親が許せなかった。そんな事件、ニュースを見ると、心が痛んだ。自分自身、裕福とまでは言えないが、貧乏とも言えない家で育ったのだ。行きたい学校に行かせてもらったし、習い事だって行かせてもらっていたことがあった。彼は誰かを強く愛したかったし、同じくらい愛されたかったが、不幸な家族を作ってしまうくらいだったら、最初から作らない方が良いのだと、強く信じていた。



 大学を卒業してからの二年間の間で、彼の心の傷はある程度癒え、また新たな夢を持った。それは、『小説家になる』ということ。新たな目標を持った彼はその情熱を冷ますことなく、毎日を生きていた。しかし、二十四歳の春。彼は気付くと、“恋”の落とし穴におちていた。


 彼にとってその二十四歳の春とは、激動の季節であった。一つは恋。すきな人ができた。そして、もう一つ。六年間勤務を続けていた、書店を辞めることになったのだ。


 その訳とは客との間に起きてしまったトラブルに由来していて、ここでは大きく関わらないので割愛する。彼にとってそれは、そこまで大きな問題ではなかった。所詮バイトだ、と彼も覚悟をしていたし、就職活動を失敗した時の傷に比べたら大したことはなかったのだ。彼はこの出来事からは、三日で立ち直った。そして、気付いた。これは、キッカケ(・・・・)だと。



 どうせ、辞めるのだ。なら、彼女に告白しようか。「すきだ」と、言ってしまおうか。彼はそう思った。それは彼にとって――彼の人生において、一大事だった。

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