エピソード1『3つ目のバトンタッチ』(6)
昆虫のような怪物がそのままドラゴンの首に鎌を突き立てると、紅色のドラゴンは身悶えする。
「グググゥ……!」
「いかん! ドラゴンが! 此処でドラゴンを失うわけには!」
老先生が叫ぶ。
「ギャゥゥ!」
ドラゴンは怪物を振り払うと、そのまま炎のブレスを怪物に放った。
「……!」
しかし怪物は、その一撃を急速後退して避けてみせる。
僕の目では、ギリギリ追い切れるとはいえさすがの速さだ。
男はその姿を楽に追えているかのようで、それが場数の差とも思わせる。
「速いか、ーードラゴンよりも!」
男は飛びのいたその先に狙いを定め、自身の足元に光を放たせた。
『マジックスロットル!』
何をしたのか分からないが、瞬時に男は急加速し怪物に迫る。
そして。
「捉えたぞ!」
男は人間離れしたスピードで怪物に追いつくと、怪物の左腕を肘から勢いよく切り落とした。
「ギギギィィィィ!」
怪物は鳴き喚く。
「ノルドシュトルム? これが貴様の本気か?」
男は床に突き刺さった怪物の鋏を眺めながらも問いかける。その時。
『望マレヌモノメ、忌ミ子メ!』
怪物はそう、男に向かって叫んだ。
怪物の表情は見て取れないが、僕の耳でも聞き取れたところによると、正しい言葉なのだろう。
「俺の何を知っている?」
男は眉を潜めながら、不快気な顔をした。
だが、
「ゲギギギギギギギギギ!」
怪物は瞬時に分解すると、その場で液状化して消えてしまった。
「倒したのですか!?」
老先生は男に尋ねかける。男は、
「あれほどの使い手が、あんなもので死ぬわけが無い。どうせすぐ近くに逃げたのだろう。奴は素での能力では、俺よりもパワーもスピードもあると推測出来る……」
そう言って、剣を納めた。
「それよりも、他の連中のケアをしたほうがいい。年端もいかない子供達だろう。死体を見るのは辛いはずだ」
男はさらに続け、先生に具申する。
まるで彼にとっては普通の日常であるかのような物言いに、僕達は少したじろいだ。
「え……ぁ、そうですね、それでは、ミラカナ君、この男の人を頼みます」
「あ、はい」
俺は、いや、なんとか態度を作りきった僕は老先生に言われ、頷いた。
「ミラカナ、と言ったか」
男は目を細めつつ、言ってくる。
「そうですね。ミラカナ・イール・フォークライと言います。この国を司る13人衆の次期6位の器となります」
緊張をしたが次期当主としての顔をだして、肯定する。
「13人衆?」
男は不思議そうな顔をした。
「質問は待ってくださいよ、僕だって聞きたいです。さっきの事は、どうやったんですか?」
「さっき、とは?」
「貴方が、怪物との距離を詰めたやり方です」
「……あれか。足元に魔力を爆発させて反動で加速する。それだけだ」
男はそう答え、
「それよりも自己紹介が遅れた。スg……あー、アトスと言う。宜しく」
ちょっと物寂しそうな目をしながら、自己紹介をしてきた。
「ありがとうございます」
僕はとりあえず、お礼を言う。
「……さて、俺は邪魔なようなのでこの場所を外そう」
アトスがそう言いそそくさと立ち去ろうと数メートル歩き出すので僕が慌てて追いかけると、背丈を合わせて耳打ちしてくる。
「あの中年だけで大丈夫か?」
どうやら、不安感を感じたようだ。
「……大丈夫なはずです、でしたら先にこのあたりを案内した方がいいですね。いきましょう」
そう提案すると、
「そうだな、分かったよ」
アトスは頷く。
僕はアトスを連れて、大広場を出た。