hold me or get out(4)
赤い錆のような物が、手足、いや全身にへばりついている。
ーーアトスは、水のような空間を漂っていた。
ごぽりごぽりと、何か流れるような音が、耳に聞こえる。
この錆は、自分を浸食しようとーーしている。
「ーー変身が解けたら、終わりだな」
静かに、呟く。
瞬間的にアサルトモードを解除し通常形態に戻したものの、これではスタミナが切れたら終了だ。
「ーー無様ね」
気付けばアイラが、アトスの前に立っていた。
「ーーお前はあの女じゃないだろう。ーーカスピエルと言ったか。あれがあの女をかたどってるんだろう」
アトスは、アイラの形をしたものに話しかける。
「ーーそう、よく分かったわね」
無感情にアイラを模るカスピエルは言う。
「ーー何をしに来た」
「どういった意味で?」
「召喚された理由」
「あの子の手足になりにきた。あの子の目になりにきた。それだけ」
「ーーそうかい」
「貴方は」
「生きる理由を探す為」
即座にアトスは答える。
「ーーそれは、見付かった?」
「ーーあぁ」
頷く。
「あの子は今、孤独。だからその為の力になってあげる気はないの? 私と一緒に」
「不要だ。あの女には未来を切り開く力がある。そしてーーこの俺は、まだ倒れることは許されない」
アトスは目を瞑り、首を振った。
「許されない? 誰に?」
「自分に、だ。この俺には、彼岸の彼方に待つ者がいる。そいつに笑われてしまう」
「理解不能」
「こういう事態に陥った時、所詮お前は人外、人の道理は分からんさ。ーーと、アイラならば言うのではないか?」
「……」
「人間自分の事が分かるのは自分だけだ。徹底した教育を受けた集団であれば、ミクモのように厳しい人間にもなるし、適度にだらければ俺のような性格にもなる」
「……」
「お前はあの女に寄り添いたいのか?」
「ーーうん」
「だとすれば、お前は俺の前を塞ぐのを辞めるんだな」
「ーーどうして」
「死ぬぞ」
アトスは、カスピエルを睨む。
「死んでもいい。ノルドシュトルムを、止める為なら。地獄の底までいったとしても」
「お前は具体的な情報を、知っているのか?」
「ノルドシュトルムはーー異界からの攻め入ってくる脅威。3年間に渡り進行は続き、1年後に第二フェイズに入りさらに攻勢を増す」
「ならば力と時間を貸せ。俺が必ず、集めてきてやる。ノルドシュトルムをぶっ潰す力を」
「ーー?」
「お前はあの女の悲しみを知ったのだろう。だとあれば、悲しみを知る俺が動かぬ道理もない。異界から来たお前の意見は、尊重しよう」
アトスは言いくるめようとし、立ち上がる。
「ーー」
カスピエルが、口を開く。
だがその直後、身体が解けて四散した。
「ーー待ってくれて、ありがとよ」
アトスはそう、静かに言った。