エピソード1『3つ目のバトンタッチ』
「ミラカナさぁ、俺達の召還では何がくるんだろうな?」
召還の儀の行われる前日。僕が屋敷の庭の隅でいつものように黄昏ていると、同じ歳の男であり次期席次8番、幼馴染のジョイス・デルタ・ジャスパーがそう隣の家の庭から聞いてきた。
奴は長髪で、自分が言うのもなんだが、育ちがそれなりにいい坊ちゃんだ。
「僕……いや俺には分からないよ。前の戦いの時に出たヒーローって奴だって、もう文献には全員の名前が残ってないんだしさ」
俺は首を振りながらそう答える。こいつの前だけでは、言葉を崩しても問題ないとの考えだ。
13人衆の仲に選ばれる人間は13家の系譜の血筋からそれぞれの直系のみであり、相当に確率の低いもの。兄弟であったりしてもそこから一人なので、確率が低い。
「そんなつれないことを言うなよ。折角俺達は戦えるんだぜ? ノルドシュトルムって奴達とさ。お前は楽しみじゃないのか?」
ジョイスはへへっと笑うと、そう聞いてくる。
「そりゃ名前を残せたりお金を貰えたりするってのは嬉しいさ。でも、危険な目にあって死ぬかもしれないっていうのは、ちょっとね。俺はなんというか、命が惜しいからな。生きてやりたい事が山ほどある」
「なんでぇ、子供らしくもない。お前、まさかーー」
「なんだよ?」
「アイラの事か? 席次3番、アイラ・ステイシア。あの子がーー」
「なんでそうなるよ!?」
「いや、だってお前あいつの事好きジャンかよ?」
「そんな事を言った覚えはないっての!」
俺は食って掛かる。
「んでもよ、見ればばればれだぜ?」
「ーーそうなのか?」
ちょっと疑問に思って尋ねかけてみる、が。
「ほれ、こう聞いてくるってことはそうじゃろが! はっはっ!」
ジョイスは罠に掛かったかとばかりに、そう煽ってきた。
「っく!」
俺は顔を顰める。嵌められた。
ジョイスはこうも口が上手いのが、尊敬できるところでもある。
「だけどなぁ」
俺が言い返そうとした刹那、
「ミラカナ様、お食事の用意が出来ましたー!」
遮るようにメイドであるヒビネの声が聞こえた。彼女の声は、屋敷からでもよく通る。
「ありがとう、ヒビネ!」
俺は礼を言うと。ジョイスに向き直る。
「……まぁ、あれだ。お互い、いい相棒を引けるといいな」
俺は言い掛けていた言葉を押し殺してジョイスに笑いかけると、そう言って立ち上がった。
「ーーそうだな。検討を祈っているぜ」
ジョイスも素直にそうこちらの言葉を受け取り、へへっと照れくさそうにしてみせた。