エピソード2 『切断されたロープ』(4)
<アトス。ノルドシュトルムに心当たりはあるのか?>
「知らんな」
アトスは自分の頭の中に呼びかけてくる声に即答しつつも、国立図書館の長机で戸棚から持ち出した書籍を漁る。
自分の過去見たどの図書館よりも充実した設備のあるヒルトライ国立図書館は、アトスの知的好奇心を満たすには充分なものであった。
『愚かな自炊を避ける方法』『美味い野草、不味い野草』『キノコの脅威』『レティウス文学史』『風土病について』と文学と食べ物にジャンルは偏るものの、読書好きの過去もあり、取り付かれたかのように知識を蓄えていく。
<ーー本ばかり読んでいても、どうにもならんぞ>
苦言を呈する声に対し、
「馬鹿を言え、何も考えずに飛び出すほうが裏目に出る」
そう言い返す。
<私が居るというのにか? チャンスを与えているというものを>
「だからと言って、俺は自分の命は惜しい。幾らボーナスステージとはいえみすみす生き延びた以上、ドブに捨てるような真似はせんさ」
<よく言う。君の心の中には強い悔恨の念が見て取れる。まだまだ引き摺っているのだろう……過去を。それに、誰よりも死にたくないという心は強いと見て取れるぞ>
「言うな。俺とて人間だ。人間である以上おいそれと忘れる事など出来ない」
図書館なので騒ぎはしないが、しかめっつらになりながらもアトスはそう小声で言ってのけた。
数時間後。8冊目の書籍である『ドラゴンの生態 上巻』を読み終えたアトスは、肩こりを感じつつも背伸びをし、視線を前に向ける。
すると、不意に彼の目に飛び込んできた書物があった。
それは、よりにもよって。
「ーー馬鹿……な」
<何だ? 何を見た? アトス>
「……ヒオウの紋章だ」
アトスはそう言いながら、本に向かって近寄るがーー。
「そこで止まってもらおうか」