エピソード2 『切断されたロープ』(3)
「……言ってみてくれていいですよ」
僕は自分の髪先を弄りながら、そう言い返す。
「君が気分を損ねるであろうから……遠慮しよう」
だがアトスはそっぽを向き、平然と告げた。
「損ねませんからどうぞ? いいですけど」
少し妙な予感を感じつつも、ふぅと溜息を吐く。
やがて。
「……それならば言うが。お前はあの女に好意があるだろう」
「っぶぇ!?」
「分かりやすい形だ。……俺にも覚えがあるが」
半ばうんざりした顔で、こちらを見るアトス。
「ななな、なんでそんな事を」
「自分に嘘の付けないタイプだ。そんなんでよく為政者になろうとする」
さらに当て付けのようにダメ押しを掛けてくる。そこに追加のように近付いてきて、デスクにどんと手を置く。
「だからこそ……一つ言っておく、女など頼りにするのは間違いだ」
「え?」
「不確か過ぎるという事さ。もしも君が彼女に好意を抱いているというのなら、止めるべきだな、感心しないのだ」
アトスは諭すように言ってくる。
「どういう事を……」
「君が思うほどに、相手が自分を思ってくれるとは限らない。いつか君は大きく傷付く事になるだろう。それに彼女は為政者の器だ。いずれ汚れ仕事を押し付けられ、君が潰れる未来が見える。君とは無理だ」
少し不快感を感じる物言いで、アトスは目線を向けてきた。
「……それはそうですね。でも……どうして」
「どうもこうもないさ。健康的に生きたいのならそうするべきだという事だ。君は特に、立場があるのだろう? だとしたら無闇に、人に期待したりするものじゃないと思う。 ……それじゃ、パスポートをありがとう。俺は暫く読書をしているから夕方になったら呼んでくれ」
アトスは険しい顔やめると、無理に作ったような笑いをしてから、カードを片手にオフィスから出て行った。
ーー入れ違いに、ミクモが入ってくる。
「ミ、ミクモ」
僕は視線を、投げかける。
「ミラカナ様、報告が。そしてーー彼、アトスはどちらに行くので?」
「図書館だそうだよ」
「ーーそうですか」
「何か?」
ミラカナがミクモを見ると、ややミクモは目を逸らす。
「……後で少々、彼には顔を貸してもらいます」
「ーーどうして?」
「少し、ミラカナ様の表情が曇って見えたので。まぁ、それよりも今日の巡回任務で面白い書類を手に入れましたーー」
ミクモは無愛想に言うと、バッグから書類を取り出したーー。