エピソード2 『切断されたロープ』(2)
「ーーどうした、モヤモヤしているのか。何かすっきりしない事でもあるのか?」
アトスの声を聞き、オフィスで我に返る僕。
学校を休んでジョイス達の葬式を終え、普段着に着替えたものの僕はすっかり疲れてしまっていた。
「まぁね。心の整理なんて、そう簡単に付くもんじゃないからさ」
僕は言って、頬杖を付く。
悩み担当という訳ではないが、こうも色々考えていると将来頭髪が心配になりそうだ。
「あぁ……悩みは尽きなくてね。少なくとも、ノルドシュトルムについての詳細さえ分かれば当面は楽になるのになあ」
「……過去の文献は無いのか?」
「残念ながら無いよ、数代前に馬鹿な内乱をご先祖様達がしてね。危うくこの国も空中分解しかけてしまったんだ」
伸びをしながら愚痴を吐いたその時、部屋がノックされる。こんな時に誰だろう。
「在室中でーす!」
僕は外に向かいそう告げると、ドアが開いた。
淡い色と、適度にカールした髪。育ちの良さがとても伺われるその人物はーー。
「アイラ・ステイシアです。ミラカナは居ますか?」
ーー何故こんなところに、彼女が?
「……あぁ、あの大広間とやらで会った」
後ろでアトスが合点が言ったようで頷く。
見れば彼女の背後には、不思議な形をした小さなロボットが浮遊していた。
「あ、アイラ上席。お疲れ様です」
僕は慌てて格式張り、そう頭を下げる。仕事の査定などもあるが、失礼はなってはならない。
アイラの担当は、貴族街の総務。彼女の機嫌を損ねたら不味いと、商人のうちでは評判だ。
「別にそこまで緊張しなくてもいいですよ。部下の方もいらっしゃらないようですし、今回は頼みがあって来たので」
アイラはそう告げると、後ろの不思議なロボットから一つの紙を受け取り、差し出してくる。
「こちらをどうぞ」
「え……あ、はい」
僕はその紙に目を通す。すると、そこの見出しには連続議員殺人事件と出ていた。
「ーーそういえばこんなのもありましたね。この事件を僕達に?」
「はい。今までは考慮にいれてませんでしたが……殺人犯はノルドシュトルムの尖兵の可能性もあります。ここ数日どうにも人間の力では不可能な殺害方法がある、と聞きまして」
アイラは困ったような表情で、告げてくる。
「衛兵とは別口に我々が捜査するよう、という訳ですか」
僕は頷く。
「俺の召還時に現れたあの化け物のような者が居たら、どうします?」
そこでアトスは、口を挟んでくる。
「アトス様ですね。可能な限りは確保はしたいですが……止むを得ない場合は、その場で独自の判断を持って処分をお願いします」
アイラは口ごもる様子もなく、そう言った。
「……了解、ミラカナが承諾するならその仕事、実働する」
アトスは頷いて、こちらに視線を向ける。
「分かりました。それではお受けします。改めてスケジューリングをさせて頂きますので、もしもこの支部より提案書が出た場合は……」
「分かってますよ。アイラ・ステイシアの権力を持って、そちらの立案プランを後援させて頂きます」
アイラは告げると、それでは貴族会議の予定が入っておりますので、と言って出て行く。
「手下の者を遣わすのではなく自ら来るとはな」
アトスがちらりと、こちらに視線を向ける。
「……何か言いたい事でもあるんですか」
「多少は、な」