エピソード1『3つ目のバトンタッチ』(11)
食事を終えてオフィスに着くと一般所員は既に出払っていて、その代わりに一人の出張帰りの所員が戻ってきていた。
ミクモ=ヒチリキ。一週間前に北隷関係の情報の聞き取りとして、送り出した青年だ。
外見年齢はアトスと同等。士族の出であるが勤勉で腕も立ち、何よりも肝が据わっていて実戦に強い。
「……室長、指令の通り、第七十二期北隷征伐の報告書をお持ちしました」
ミクモは鎧のままで、そう話しかけてくる。
「すまない、待たせてしまったか」
「いえ、5分程前に来たところなので」
ミクモは言った後、アトスに目を向ける。
「失礼しますが……どちら様ですか?」
「あぁ、私の友人でアトスと言う。暫く此方で仕事をしてもらうのでよろしく頼む」
僕はそう告げる、がその時、ミクモの眉が僅かに動いた。
「……そうですか。宜しくお願いします。こちら、私の名刺です」
ミクモは鎧の中からケースを取り出して、紙をアトスに渡す。
「私の名刺はまだ無くて、すまないが……ありがとうございます」
アトスはそう丁寧に礼を言うと、自身のバッグに閉まった。
「それでは報告は以上なので、次に出張後の清算を経理の方にしてきます。改めて詳細な報告はさせて頂きます」
ミクモはそう言うと、静かに部屋を出ていった。
「ーーあの男、俺が気に食わないようだな」
アトスはミクモが出てから、そう小さな声で言った。
「え?」
僕が問い直すと、
「敵意が見える、と言えばいいか。彼は仕事に関しては真面目そうだが……相当負けず嫌いなところがありそうだ。その辺からの、殺意を感じた」
静かだが、説得力のありそうな声。
「気のせいならいいけど……気をつけておくよ」
僕は天井を仰ぎながら、心の中にチェック印をつけた。