エピソード1『3つ目のバトンタッチ』(10)
「書類で見させて貰ったが……この国というものも、安全ではないのだな」
夕食として食堂でこの都市の定番とされるヒルトライ定食を注文して食べていると、アトスは世間話のようなテンションでだるそうに言ってくる。
彼は箸の使い方も器用で、まるで異世界の住人だとは思えない。
「……ええ、レティウス国の北方と西方には異民族が居ますからね。彼らとうちの国は小競り合いをしてますよ。此処100年の話ですけど」
僕はそう返事をした。
異民族ーーあれらにはそれぞれに呼称があり、北方民族の北隷、西方民族の西劣がいる。
先々代のレティウス国家が中央集権的な思考であり、自分達以外を侮蔑して名付けたという物でもある。
「しかし、北隷に西劣か。自分本位な呼称だな」
アトスの言葉に確かにそうですねと前置きしてから僕は話を続ける。
「この国も、確かにクリーンとは言い難いですからね。内部の僕が言う訳ではないですけど」
「一応その辺を言える自由はあるのか。しかし、これだけ敵が居るとなると骨休みにもならん。その上であのノルドシュトルムとかいう物を相手にしないとならないのだろう?」
「えぇ」
「……だとすれば、一枚だけは噛ませて貰うさ」
「協力してくれると、いう訳ですか」
「あぁ。俺の人生は既に終わったからな。後のボーナスステージは人の為に生きると決めている」
アトスは箸を置くと、お前の分も取ってこようと言いセルフサービスの水を取りに言った。