親友と元カノと友達の友達とクトゥルフなんだが……
俺は目白かい。みんなには内緒にしているが、実は日系韓国人だ。
小学校時代に苛められた思い出で、自分に自信なんか持てない。
そんな中、あんまり喋ったことのないクラスメイト、秋葉原まなに告られた。
多分、テストの日に消しゴムを忘れたけれど、周囲に消しゴムを貸してほしいと言えない秋葉原が放っておけなくて、自分の一個しかない消しゴムを二つに割って貸してあげたからだと思う。
隣の席だし、当たり前のことをしたまでだ。
意外だったのは彼女は友達の少ないタイプで、変わり者の二人の女の子とばかり行動しているイメージだったから、変わっているのかな、と思っていたが、普通の女の子だったことだ。
確かに文化祭準備も普通に気を利かせて行動していたし。
別れてから、もうこうして遊ぶことは無いと思っていたが、こんな風にTRPGをするのも悪くない。
はっきり言おう。俺はTRPG二回目の初心者だ。
でもゲームは何でも大好きだった。
「じゃあ、地下に行くか」
そろそろ伏線も回収しただろうし。
俺の言葉に、馬場高子が手を挙げた。
「あの、ちょっといいですか……?」
こいつはもっと大人しいイメージだけど、TRPGになると、いつもよりちょっと自分を主張するようになったと思う。
「なに?」
尋ねると、低い声に驚いたのか、馬場高子は恐縮したように言った。
「あの……助手が心配で……病室を見に行きたいんですけど」
「あ~」
筋肉ムキムキのマッチョで真面目な奴か。
確かに心配だし、まあいいか。
――――結論から言うと、マッチョは病室にはいなかった。
「どうした! マッチョ!!」
「ちょっと待って目白くん!! 名前はマッチョで確定なの!?」
「わ、私的にはワトソンくんのような……」
「あたしはぁ、みんなと一緒がいいー」
「明らかに名前よりも執着しなければいけない箇所があるだろ!!」
俺達は目星を使った。秋葉原以外全員が成功した。
「成功ですかぁ~」
つまらなそうに溜息を吐く渋谷はウザい。
「荷物とかは綺麗に置いてあります。あ、近くにはにんにくがありますねえ。あとはオカルト雑誌が無造作に置いてあります」
わかった情報はそれだけだった。
俺達は地下二階に降りた。
「右の部屋に行きますか? 左の部屋に行きますか?」
「右! みぎみぎみぎ!」
秋葉原の言葉に俺達は頷く。
「テッテレー! ドラッキュラが現れた!」
多分物語の終盤キターーーーーー!!
最初に秋葉原の攻撃。
看護師の日記を見つけた更衣室から持ってきたニンニクを投げる。
「失敗デェス!」
秋葉原はさっきから一度も成功していない。どんだけ運が悪いんだ。
次に池袋みなみ。十字架を投げた。
「成功……しましたが、ドラッキュラはなんか嫌な顔をして終わりです」
その次に馬場高子の攻撃。
もう一度、ニンニクを投げた。
「失敗デス」
馬場高子が失敗なんて珍しい。ニンニクの呪いか?
リベンジのつもりで俺もニンニクを投げてみることにした。
成功する。しかし、渋谷(ドラキュラ的役割も果たす)が回避を使い、しかもクリティカル(サイコロの目が五以下。百分の五の確率)で成功した。
「成功……ですが、ドラッキュラはさっと避けました。でも彼の家? のかんおけにベチャッとニンニクがかかって、『俺の家に帰れなくなっちゃったよ』みたいな迷惑そうな顔をして、攻撃を始めました」
渋谷はサイコロを振って誰を攻撃するか決める。
「四……だから目白だね。ええと……」
ドラキュラはメチャクチャ素早くて、殴られたらひとたまりもなかった。
俺は死にかける。
次の番になった医者の秋葉原が、医療で俺を治すとか言う。俺は全く期待していなかった。
秋葉原はクリティカルを出した。しかも一。
なんとか俺は生き返った。
「さ、サンキュ」
一応礼を言う。
そして三週くらい攻撃をして、秋葉原以外が成功するが、全然相手は死なない。
「やだ~。ドラキュラさんが可哀そう~」
池袋みなみは優しいのかなかなか攻撃ができないみたいだ。
「ドラッキュラは何このブス? みたいな顔をしました」
「ぶん殴る!!」
池袋みなみの攻撃は成功。二重の意味でドラキュラと渋谷は死んだ。
「俺達は……助かったんだ……」
ちょっと気が抜けた声を出す。
「みなみちゃんのバカ力で……いっ」
余計なことを言う秋葉原を池袋は軽くつねる。
「皆さん、左の部屋を見に行きましょう」
左の部屋にはマッチョや看護師や……たくさんの人が縄で縛られていた。
俺達は縄をほどいてあげる。
ドラキュラが食事をするために、監禁していたのか……?
「じゃあ、ゲームはこれでおしまい。真相を説明するよ」
渋谷は興奮した身体を冷ますように冷たい麦茶を飲んだ。
「あっ。それ、私のコップ」
「ぶっ!!」
秋葉原の言葉に渋谷はむせる。
「だ、大丈夫ぅ??」
心配する池袋に純情な渋谷は立ち上がって動けなくなる。
「そんなに気にすんなよ」
俺の言葉に、渋谷はおろおろしっぱなしだった。
「お、俺、どうしたらいいかわからない。なんか……悪いことしちゃったなあって思って」
俺がペプシ買って飲んでいたら『誰だ、誰だ、誰だ~、ペプシマ~ン』ってわけのわからないオリジナルソングを歌いながら、奪い取る奴が、何言っているんだ。
「いいから座りなよ」
秋葉原が愛想笑いをして渋谷に声を掛けても、渋谷は固まったまんまだった。
「ほんと申し訳ない……」
「あーもう!」
秋葉原が草食系渋谷にイライラしたように渋谷がすでに口をつけている麦茶を飲んだ。
みんな目を丸くする。
「ごくごくごく。ぷはっ。ごちそうさま! 続きをしよ!」
秋葉原のこういう所を短所だと思う人もいると思う。でも、俺は好きだった。
恋人としては好きになれなかったけど、ここだけは好きだった。
あいつが男だったら友達になれたのに、なんて残酷なことは言わない。
ありがとう、ごめんね。
今更だけど。元恋人の、友達ですらない同級生に心の中で呟いた。
正直言って好みなのは馬場高子なんだよなあ。コミュ障だけど性格良いし。
ただ、秋葉原を傷つけたら申し訳ないから、一生口には出さないけど。
さあ、この物語の真相に続く!!