みんなでクトゥルフ☆
秋葉原まなちゃんに誘われてクトゥルフをすることになった。
あたしがやるゲームといえば、人狼とかバイオハザードとか、そこらへん。
というかこの中で一番ゲームをしないまなちゃんに誘われて、私は正直驚いた。
だってまなちゃんの趣味っていったら、電車に乗ることだもん。
鉄オタがTRPGなんて……。
***
「あ、あなたがたは、この……この病院のっ、お医者さんなんで……すか……?」
つっかえながら頑張って訊いてくるのは、幼馴染の馬場高子。
大人しいから友達は少ないけど、多分あたしとまなちゃんと高子の三人だったら、高子が一番性格が良い。
簡単に言うと、まなちゃんはウザい。熱血。どんくさい。以上。でもあそこまでひたむきなのは羨ましい。
そして高子は清楚。奥ゆかしい。優しい。でもTRPGをしているのを見ていると、いつもと印象が違う。
ちょっとマンチキンのような……う、うん。なんでもない。
「そうだね。まだ自己紹介していないもんね」
渋谷くんは苦笑した。うん。優しいのか、面白がりなのかわからない。
「あたし、池袋みなみです! この病院の臨床心理士ですぅ」
あたしはぶりっこだ。それは自分でも自覚している。
でも、何がいけないの? 男子から可愛いって思われたいじゃん。実際あたし、可愛いし。
それに、女子にきつく当たったりしないから、性格だって悪いわけじゃない。
可愛い演技イコールぶりっこ。ぶりっこイコール性格が悪い。
こんな数式がはびこるこの世の中が悪い。
「私は秋葉原まなです。医者です。池袋さんとは大学時代からの友達です。私達二人とも、今日が初出勤で……」
「そ、そうなんですか……。私は馬場、高子、で、す……。探偵です」
この人によく探偵が務まるなあ。
「で」
まなちゃんは、目白くんのほうを見やった。
「そちらの……いかにもエンターテイナー風の方は?」
「え? 俺、いかにもエンターテイナーなの!?」
目白くんの叫びに、渋谷くんは面白がって言った。
「しかもあれだよね、図体がちっちゃくて、筋力のある謎の男」
確かに目白くん、設定的にはサイズ値が低かったような。
「しかも十八歳なんだもんねえ! あたし達より年下かあ」
あたしの言葉に、目白くんは『余計なこと言いやがって』みたいな顔をした。
「目白かいっす。よろしくっす」
とってつけたような敬語を使う目白くんに、秋葉原まなちゃんは「可愛いなあ」みたいなデレッとした締りのない顔をした。
「と、とりあえず、進もう!」
まなちゃんの言葉に私たちは歩き出す。
地下の部屋を見て回り、気づいたのは高子がガチでマンチキンだってことだった。
「じゃあ、目星を使えば、この血痕の原因も推理できる鍵を見つけられるんじゃないでしょうか……?」
小さな声で粘る高子。しかも目星の力をいやに過信している。
ちなみにまなちゃんは三十回くらいダイスを振っているけど、さっきから一度も技能が成功していない。
運が悪いなあ。
医者で能力を割り振った時に医学はダイスで七十以下を出せば成功なのに。これってある意味才能かも。
地下一階の部屋を全て見て、階段に行きついた。
「上へ行きますか? 下に行きますか?」
渋谷くんの言葉にみんながどうしようって顔をした。
「とりあえず、一階建ての病院だから、上の様子を見ればいんじゃね」
「そ、そうだね。それから下に行こう」
「一回に行くともう夜になっていました。四人とも、十時間くらい寝ていたようです。自動ドアに近づくけど、ドアが開かない! そこで不安で仕方なくて……やったね、SANチェックで~す!」
渋谷くんはうざい顔して言った。さっきからずっとそうだが、技に失敗したり、SANチェックになると、異常にウザくなる。
クトゥルフ神話で重要な要素SAN値。
SAN値が減れば減るほど狂気に陥りやすくなるらしい。
あたしたちはダイスを振ってSANチェックをした。
ちなみにまなちゃんはさっきから一人だけやたらSANチェックしている。
彼女は今回含めて九ポイントくらい減っているけど、大丈夫かな。
元々の数から二十パーセント減ったら「不定の狂気」でしょ。彼女は元々のSAN値もそんなに高くないから、ギリギリだと思う。
「うわっ、俺五ポイント減っちゃったよ」
「一時的な狂気ですね」
目白くんの悲痛な声に、渋谷くんはニヤリと笑った。
「くそっ」
目白くんはいきなりけいれんし始める。
「うわあああああああああ! こんなとこ、来なければよかった! 異常だ、この病院は!!」
「ひっ」
「目白くん、ここ人んちだよ!?」
高子ちゃんが大きな声に驚いて身を竦め、まなちゃんはツッコミを入れるが、渋谷くんは「いいから」と愉しそうに彼を見つめていた。
SAN値減ると演じるのが大変そうだなあ。
その後、看護師の更衣室にて、とある日記を見つける。看護師の日記だ。
「読んでみましょう」
渋谷くんの言葉をあたしたちは固唾を飲み込んで聞いていた。
『●月×日、この病院はおかしなところがある。時々患者がいなくなるのだ』
『●月×日、看護師は全員十字架とにんにくを持たされる』
『●月×日――――今日、私は知りすぎてしまった。この病院は異常だ。でもあの四人ならなんとかしてくれるかもしれない……』
看護師のロッカーからは十字架とニンニクが出てきた。あたしたちは分け合ってそれらをポケットに入れたり、身に付けたりする。
「じゃあ、地下に行くか」
目白くんがそう言った時に、高子が手を挙げた。
「あの……ちょっと、いいですか……?」