全然知らない同級生のお家で元彼とクトゥルフなのだけど……
11時にセンカワ駅で待ち合わせらしい。
四十分前には到着したけど。
『千の字の千川じゃないよ。仙人の仙川だよ』
もう千川に到着してから、目白くんに電話で言われて驚いた。
「うん、すぐ行く! 走っていくから!」
『別に時を掛ける少女じゃないんだから、早くても一時間はかかると思うぞ』
「ええ!? でもあと四十分しかない!」
『俺から説明しておくから』
……うん。急ごう!
私は走ってホームへと駆け降りた。
結局、何かの化学変化が起こって、四十分後に着いた。
「えー……。時、駆けちゃったよ……」
目白くんが訝しむような顔で見てくる。
それでも五分くらいは遅刻してしまった。
「ホントごめんね!」
謝ると、渋谷くんは首を横に振った。
「いや……本当なら四十分前に着いていたんでしょ? いいじゃんか」
目白くんがそこまで話してくれたんだ……。ありがたい。
「目白が『ちゃんと教えておけば良かった』言っていたよ」
あはは……。目白くんは私がいないところで私に優しい。
目白くんは私の元カレだった。
……うん。数か月前に振られた。
いやねえ、わかっているんだよ。彼が私と付き合ってどんどん元気が無くなっていったのは。
多分、私の事が好きじゃなくて、罪悪感ばかり溜まっていったのだ。
最初から振ればいいのに、とは思わない。
だって好きになれるかもしれないじゃん。だからきっと、私の力不足。
ただ、別れの電話で一時間ほど粘った自分は、格好悪くて黒歴史だ。
悪いことしちゃったなあ。
渋谷くんの部屋はとても片づけられていて綺麗だった。う、私も帰ったらお掃除しましょう、おほほほ。
「わぁー! 本棚だぁ♪ すごーい」
そう言った美少女は池袋みなみ。あざといタイプの女の子だ。
「あ! それは!」
本棚にはBL本が転がっていた。私の友達にも腐女子はいるけれど、オヤジを襲うSっぽい男子の表紙だった。
「……これ、妹のだから」
めっちゃ青ざめた顔で渋谷くんは言い訳する。
「妹さんの部屋隣だよね?」
私の言葉に渋谷くんはまだ首を横に振った。
「妹がよく俺の部屋で読書するんだ!」
「どこの妹が兄の部屋でBL本読んでBL本置いて帰っていくよ!」
「それ、俺の本だから」
渋谷くんが気の毒になったのか、目白くんが庇うように言った。
「目白……」
渋谷くんは感動したように目白くんを見つめた。
「そうそう! ついでにこの本も、あとこの本も、目白がこの前遊びに来た時に置いて帰ったんだ!」
「クズだ! ここにクズがいる!!」
渋谷くんって腐男子だったんだ……。
「ともかく、TRPGのために、自分のキャラクターを作ろう」
渋谷くんはごほん、と咳をして、専用のシートとサイコロを取り出した。
まず、自由に職業を決めてから、筋力や精神力、頭脳などのパワーをサイコロを振って決めるように指示された。
「アドバイスしておくと、今回は医学の能力がある人がいると便利かも」
渋谷くんがそう言ったので、私は医者を選択し、基本的な能力を決めた後、医学の能力を高めに設定した。
基本的な能力はダイスと呼ばれる六面のサイコロを能力によって二つまたは三つ使って決めるから完全に運だけど、医学などの職業技能や趣味の技能は決められた範囲内なら自由に決められるらしい。
うーむ。私は馬鹿だからよくわからないけれど。
「わっ。私は探偵に……」
馬場高子ちゃんが顔を真っ赤にしながら言った。
「えへへ♪ あたしはぁ、心理学者になるね!」
池袋みなみちゃんは顔の横で可愛らしくこぶしを作って微笑んだ。
「俺は、エンターテイナーかな」
「ちょっと待って」
私は思わず突っ込みを入れた。
「なんだよー、悪いかよー」
ちょっとむっとしたように言う目白くんに私は引きつった笑みを浮かべた。
「だって……エンターテイナーだよ?」
「ツッコミが意味わかんねえ!?」
目白くんはどっしりと構えていた。
「とにかく、俺はやってやんからな。エンターテイナー」
と、倒置法を使うほどの内容じゃない……。
ともかく、こうしてキャラクターが決まったのだった。