全然知らない同級生とクトゥルフなんだが……
俺は渋谷シラナミ。高校三年生だ。
TRPGの話をしようと思う。
まずTRPGとはゲーム機を使わずに、サイコロなどを用いて進める、ロールプレイングゲームのことである。
参加者はゲームマスター(一名)とプレイヤー(一名でも一応できるが普通は複数名)に分けられる。
ゲームマスターはゲームのシナリオをだいぶ把握しており、簡単に言えば、ゲームの際に司会を務めるものを言う。
参加者は、自分で作り出したプレイヤーを演じて、ゲームクリアを目指す。
例えば問題が起きる。
ゲームマスターが「Aさんは宝物を見つけなければならない」と言うと、Aさんは自由に「Bの部屋に行きます」などと選択できる。そして「Bの部屋の中で探します」と言う。
その際用いるのがダイス(サイコロ)だ。
例えば、Bの部屋の中で探す能力(目星)を使う場合、目星の成功率は五十パーセントだったとする。
その場合、Aさんはダイス(サイコロ)で五十以下の数を出すことができたら成功だ。
成功した場合、ゲームマスターは「Aさんは宝物を見つけました」と言って、クリア。
失敗した場合、「何も……見つかりませんねえ」と皮肉気に答えてゲーム失敗となる。
そんな魅力的なゲームTRPGは、学校では全然知名度が無い。
俺は先輩プレイヤーたちにTRPGを教えてもらった恩を返すべく、日々布教活動をしているのだった。
「あたし、TRPGやりたい」
いきなりそんなことを言ってきたのは、クラスも性別も違う、同級生の秋葉原まな。
そこまで喋ったこともなかったので、ちょっと面喰ってしまった。
でも、知り合いという知り合いを布教しつくしたことと、もうみんな受験モードになって構ってくれなくなったことから、俺は了承した。
「ただし、お前……失礼、秋葉原さん一人だけだと、一人で人生ゲームをやる感じになるよ?」
「何人集めればいいの?」
「三人集めれば文殊の知恵というから、三人居れば最高だけど、二人いれば……」
秋葉原は綺麗な顔をしているけど、少々ウザい性格なので、友達が多そうには見えない。
さすがに一人くらいは友達はいるだろうが、TRPGをしてくれる友達となると、ハードル高いんじゃないか。
俺達は人気の少ない下駄箱で話していたのだが、ちょうど秋葉原の友だちが通りがかったらしく秋葉原は軽く微笑んだ。
「ねえ、馬場ちゃん、私、TRPGやろうと思うんだけど、興味ない?」
「ない」
馬場高子は俺にとって内気なイメージがあったけれど、こんな冷たい声を出すんだ、と思った。
たしかに秋葉原は強引そうだから、はっきり言っておかないといけないもんな。
秋葉原もさすがに気まずそうに笑った。
「まあ、日付、指定してよ。それまでに探すから。最悪一人すごろくするよ」
「じゃあ今週の建国記念日。時間が掛かるから、休日に俺の家でやるしかないんだよ」
「渋谷くんの周りにちょうどいい人はいないの?」
「いないなあ。えーと……でも、強いて言うなら」
俺は携帯のTRPGリストを見た。
「目白かいって知っているか?」
「ヴ、うん」
「何故声が裏返る」
「別にぃ。ええと、彼がどうしたの?」
「あいつ、ゲーム好きだし、受験も専門学校だから、誘えば来てくれると思うよ」
「来てくれるかなあ」
「だって去年秋葉原さんと目白はクラスメイトでよく話していたじゃないか」
「まあね」
秋葉原は気まずそうに笑った。
「いやなら無理強いはしないよ」
俺の言葉に、秋葉原は「まあ、探してみるねっ」と答えた。
三日後の晩、秋葉原からメールが来た。実は一昨日にはもうメールが来ていたのだが、全然気づいていなかった。
『メンバーが決まりました!
目白くん、馬場高子ちゃん、池袋みなみちゃんです!
馬場高子ちゃんは実は一年前からTRPGをやりたくて、私に言っていたみたいなの!
だから誘った時怒っていたみたい。無神経だったわね……』
『ごめん、全然携帯みていなかった。
では十一時に上野駅前で。
期待に応えられるかはわからないが、一年間の願望に見合ったセッションになるように頑張るよ』
送信ボタンを押して、俺は溜息を吐いた。
さて、シナリオどうしよう。
目白が過去二回、クトゥルフを経験しているんだよなあ。
他三人は全員初心者だし。
というか、秋葉原と馬場と池袋の三人は仲が良いが、目白だけ外れている。
JR線の駅ならば、秋葉原が外れているのに……ややこしいな。彼らを名前だけで駅とからめてはいけない。