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日記4

 vol 61 AKー1地区に突撃


 私が目撃されたっていう情報がいってたんだろうけど、IT地区、AK地区の関所は厳重に張られていた。かと言ってHD地区に戻るわけにも行かないのよね。レオンハルトがいる以上、獣の集団で端から山狩りを始められて全国の盗賊が捕まりまくっているのと同じ結末だけが待っている。

 ということで「どうせなら新しい地で美味な食にありつくのが旅の醍醐味である」というコヨリの熱心な欲望に譲歩して目的地はAK地区に決定。ロアールは地の利がどうのこうのでIT地区を押してたけど、ペルピィが「何処に行こうがヤバくなったらお前ら囮に消えるから、どうでもいい」なんてポロリと本音を漏らすものだからロアが拳で追いかけてった。いない人間の意見は放置されるのよ。


 ひとまず追撃者に見つかった時の関所はダイスケが強引に走り抜けてくれた。頑固な連中が何人かいて道を塞ぐもんだから車で轢いてきちゃったけど、まー、大怪我はしてないでしょ。ダイスケがそれはそれは丁寧に放り投げて、横に弾き飛ばして、肉球で踏みつけていたから。

 こんなに優しくて賢いモイモイ見たことないわ!そうでしょ!?




 vol 62 ペルピィとAKー5地区


 夜に森の中に車を隠して休んでいたら、ペルピィが起き出して何処かに消えて行くのに気がついた。それで出かける時には手ぶらだったのに袋を携えて戻ってきた。ブランケットからジーッと観察してたら気付かれた。「何してきたんだか」って聞いたら「てめえに関係ねーこと」だって。学者を装うことすら止めてきやがったわね、こいつ。


 袋の中から酒を出して飲みだしたペルピィから「乗車料代わりよ」と腹ばいのままコップを突き出してやる。北端のアルコールは舐めてみると結構きつい。空の月を見上げながら、ふと「学者やるの楽しい?」とか聞いてみた。ペルピィはニヤニヤしながら私を見下ろして「論より証拠だ。実践する方が割に合ってる。し、俺は楽して愉快に生きれりゃそれでいいね」だと。「ふーん、やっぱり学者なんかじゃなかったの」「お、やっぱバレバレ?」「素性を探ろうと思ってなかったから見ないフリ」「だろうな」なんてとりとめない会話をダラダラ垂れ流してた。ぼんやりとしながらも袋の中をこっそり覗いてやると、おつまみじゃなくて金目のものしか入っていなかった。


 おつまみは用意しとけよ。




 vol 63 YTー1地区で黄昏きれない


 このまま何処まで行けるかな。姿をくらますにもHD地区で目立ち過ぎた。このままでは長細い島国だもの、追い立てられて敵の本拠地まで戻されてしまう。でも最北端に来たら次は戻るしか手はないじゃない?

 捕らえられたら獣達が命令をきかなくなるようにしてきた置き土産を解けと指示されるだろうな。言う事を聞かなかったらみんなを処分するとか言うかな。だったらやっぱり罪人として捕まってやるわけにもいかない。いっそ私がこの世のどこにもいなくなって手に入らない状態になれば全ての問題が宙に浮くだろう。

 どうすればダイスケ達を守れるんだろう。幸せにしてあげられるだろう。


 悩ましいわけ。ちょっとぐらい悲劇に浸ってアンニュイしてたいわけ。でも世間には関係ないのね。

 山のど真ん中で怪奇現象。朝目覚めたら車の裏に突然深い溝が何kmにも渡った向こうの方まで抉れきってるの。例えば大きな土竜が山の表面を削っていったかのような。

 これ魔術よね?普通の魔術師では考えられない威力だけど、どかんと一発はげ頭やった後よね。後少しで直撃エンカウントしてそうなこの爆撃後でしょ、マジで死ぬっつの。どこのはた迷惑な大魔術師だ、こんちきしょう。朝からビビって日記書いちゃったじゃないさ。




 vol 64 悪夢のYT-3地区


 HD地区にいた悪夢のヴェンパーがどうやらYT地区でも暴れてる模様。ここらで目撃されている大魔術師といえばヴェンパーということで、割とこの感は当たっていると思う。

 悪夢のヴェンパーといえば世紀の大魔術師と呼ばれながら、史上最悪の問題術師としても瓦版ではお馴染みよね。やれ1つの島を原色の目に痛いカラーに染め上げる呪いをかけてファンシーにしただとか、研究所にやってくる客がウザくて敷地から半径5km以内に幻術をかけて近辺の町を大混乱に陥れたとか。いるのよねぇ、マイペースで他人の迷惑顧みないどういう理屈で動くのか分からない偏屈で自分ルールを持っていそうなタイプ。

 もしも、この辺りにいれば関所に嫌気がさして暴れまわったり、役人に眠りの術でもかけていそうだわね。


「山は見飽きたのである。この道を進むのだ」とかコヨリが山の抉れた溝を指す。うーん、確かに山道よりは綺麗に真っ直ぐ魔法で道になっていなくもないけど。これ、ヴェンパーに続く道だったりしないかしら。余計なトラブルは避けたい。

 なんでかぺルピィが余計な心配だと言いきったから道は使わしてもらうことにした。全責任はペルピィで。




 vol 65 肩なし関所NTー1地区


 突破とかで蔑ろにしている私が言うのもなんだけど関所破りが横行して全国的に問題になっているようだ。さっき通ったNT地区への関所もなんやかんやで破壊されていた。何によってというと、私達が最近ずっと進んでいたヴェンパーの抉った魔術の道。あれが絶妙に関所横の塀に大穴をあけてつうつうになっていたのね。


 修復作業をしながらぶつくさ言っている作業員に話を聞いたところ、死人は出なかったらしいけども町にまで魔術が到達していたらしくって、みんなの広場が抉れた更地にビフォーアフター。コヨリが「これを期に道を走りやすいよう整備するが良かろう」とか言って近くにいた役人怒らせていた。ついでに私のこともばれて「ぐおらああ!!」って感じで厳ついのがわいてきたので、ダイスケが自主的に私を車の中に放り込んで、修繕中の大穴に突撃。

 穴どころかドミノ倒しで完全に崩れ去って、後ろ眺めると景色が広くなってた。ロアが顔面を押さえて呻いたいたが、ペルピィとコヨリはそれぞれ「すっきりした」と満足そうにしていた。


 よし、私しーらない。




 vol 66 NT‐2地区でストーカー再来


 酷いよね、家宅侵入罪でダイスケの肉球でポコポコの刑だよ。今回はびっくりしてダイスケがシュンとしちゃったしね。というのも、道を走っていたらダイスケに飛びついて車の中に侵入した男がいたわけ。あれ、TY地区辺りでいたロアの知り合いのおっちゃん。各地の魔物の大発生時にロアが仕事を辞めるのは罪深いだの、民衆が困るだの、以前にも増してウダウダ言っていた。

 しかし、いつもなら騒がしいロアがおっちゃんに掴まれた腕を静かに振り払って真顔で切り捨てていた。「なんでもかんでも責任押し付けてんじゃねえよ」一気に緊迫した空気が張りつめた。

 あの2人の間にだけ。


 私はどうすればいいのか困っているダイスケにまたがって労っていたし、他2名はさっさと自分の時間を満喫していた。ロアんとこの問題話なんてぶっちゃけどうでもいい。まあ、なんやかんやで言い争いが掴み合いに発展しておっちゃんは車の外にポイ捨てされていたけど。

 最後に車の後ろからおっちゃんが「君にそもそも魔術師なんて向いていーなーいー」って叫びが届いて消えた。


 しばらくロアが『基本の魔術』っていう飾り気のない分厚い本を車の隅で三角座りしながらモソッと読みつつ「俺にこの職業は向いていないのだろうか」とかボソボソ自問自答していた。いい加減に鬱陶しくなってきて、私は「向いているか向いていないかで決めるものじゃないでしょう。出来ないから辞めるなんてしていたら、世間の仕事人の8割が定職につかないと思うわ。誰でも努力で技は身につけるんだもの」とぶった切ってみた。そしたら「そうだよね!プシィは良いことを言うなあ」とか目を輝かせ再び手品臭いことを熱心に始めた。


 まあ、お前の魔術の呑み込みが遅いのは確かだけどもな。




 vol 67 米丼ってNT‐4地区


 食堂でNT地区特産NT丼を注文。誰もが食した後に必見というセリフを残して詳細を語らない謎のもの。これまた危険な気がしたけど好奇心の方が勝った。永遠にこの謎が解けないかと思うと癪だった。そして出たのがドン、米に米のせた米丼というわけね。ざけんな。

 米作りの地区で有名なのは知ってるけど、何米と何米をブレンドした上の米に、NT米をのっけるって、全部が米じゃん!丼いっぱいの白米だよね!?味噌汁と米丼という有様に、思わずコヨリに笑顔で差し出してしまった。

 そして、金も払わないくせに「こんなものを我が輩が食すか、馬鹿者」とか窓の外に放り捨てやがった。露出狂のオバンへっぽこ剣士のくせに生意気な。「お百姓さんに謝ってーーー!!!」とかロアが叫んだり、ご飯すくうやつ振り上げて食堂のおばちゃんが襲いかかってきたりで、食いっぱぐれてしまった。


 外に捨てられたご飯は後でダイスケが美味しくいただきました。


 っていうか、やはりというか、食べ物系で地元物は当たり外れが激し過ぎるのを改めて確認したわ。




 vol 68 履歴書ありきNT‐7地区


 ストーカーとはえてして意志疎通が困難なのに相手はしつこく構ってくるところがまいるもの。車を引いているとはいえ鈍行でもないダイスケを先回り、襲いかかり、キャンプの場に出現し、罠を張り、毎日うんざりね。マジうざいのね。もう、一回ロア生贄になって里帰りで問題解決してくれば?と思わないでもない。

 でもペルピィが「財布がいなくなると懐が寒くなるだろ。まとまった仕事も今はできねえし、適当にお前が引き止める言葉でもかけとけよ。念のため」とか意外にも引きとめる方向で働きかけてきた。口を開けばケンケン轟々と言い争ってるのに金のことになると真面目に干渉するねー。


 まあ正直、前の仕事場から戻ってこいとか、才能だ、天才だ、もったいないだのと人の選択を無視した言い分は私も気に食うもんでもないし、なにせ私もそのただ中だから思う所が無いこともない。

 本人はどんな感じなんだろうかと本を開いている顔を覗きこんでやると、当のストーカー被害者は「迷惑掛けてごめんな。逃亡生活で忙しいのに」と困り苦笑してた。

 分かってるなら、vol 10くらいで車への不法滞在止めて野へ帰れよというセリフを言いたい気もしたが「私についてくるのなら迷惑が倍返しになるかもね」という殊勝な言葉で留めておいた。健気だなあ、私。


 過去と現在を比較して想えば迷いが生まれる。一度道を変えたのなら行き止まるかぶっ倒れる限界まで続けるべきなのよ。それが例え立派でなかったとしても継続は力なり。以前よりも確実に芸は広がるんだから。

 親父の隠し芸でもね。




 vol 69 NT‐9地区で遠いホラー


 町が血の海になった。

 南の方でまたアレ系の事件があったらしい。今までの大量発生の中ではもしかしたら一番厄介なものかもしれない。何せ町中で肉歯み虫だ。わいたのはあっという間。新鮮な脊髄を食み、皮と肉をかぶったまま神経を支配されて死んだ体が動きまわって新たに人を襲い次々に生き物へ移り住んで行く。肉体が崩れながらも動く死体の様は最悪としかいえない。肉歯み虫は大抵の虫なら消化してしまう鳥鳥の胃袋ですら食い破る。


 肉歯み虫といえば人気をはくしたホラー『パニックLOVE学園』を思い出す。肉歯み虫に体を乗っ取られた恋人が次々に学園の生徒を襲いまわるのを彼女が倒すというものだった。ただ専門家的に評価させてもらえば、肉歯み虫に乗っ取られた死体があそこまで俊敏な動きを見せるわけないっていうのと、襲われて虫に移り住まれたとしても脊髄が食べ尽くされるまでは死体が動かないからあんな乱闘パニックにはならないんだけど。


 ならないのよ、町中が血の海になんて。

 それだけ数が異様だったということになる。最悪の光景だったろう。

 酷かったの、だろう。




 vol 70 関所前からNT‐10地区へ戻る


 あのロアのストーカーのおっちゃん、バジル・レイシアとか名乗った。ついに関所で構えてやがった。私が指名手配されているのを利用して兵隊で固めてやがったのよ。そこまでロアを回収したいか。どうでもいいけど私を巻き込むなら冗談じゃ済まさないわよ。こちとら可愛いうちの子のために命はってるんだってのにロアの取り合いとかいう分けのわからない騒動はごめんこうむるわ!!

「ON地区での肉歯み虫被害のニュースは君達も耳にしただろう。世界が危機に瀕しているのなら命を賭けて戦うのが英雄たる君の義務だ!天才獣使いチェイカル、それは貴方も同じではないか!」だってさ。


 ねえ、本当に腹が立つ。

 だったら他の連中にも命はらせなよ。どうして仕事を辞めたのに死ぬ覚悟をしろって言うの。私にはその命を捨てる仕事が向かないから辞めたのよ。そういう人間は他にもいるでしょう?仕事を続ける義務なんて誰が決めたの。便利だから、自分達を守る盾がいなくなるから、英雄や天才に職業を選ぶ権利は無いって言いたいのね?世界が危機に瀕している時にプライベートを優先するなって言いたいのね?自分達は逃げ隠れして、私に、ダイスケ達に危機的状況をぶつけて日常を守ろうってわけ。


 冗談じゃない。

 私の大切なものは他人の日常より優先されるお軽い存在じゃないの。仕事は自分の大切なもののためにやってたの。その大切なものってのはお金でも地位でも名誉でもない。

 罵られるのが嫌で偽善働かすなんてまっぴら。強制なんてもってのほかよ。


 捨て台詞だけぶつけて一時退散するしかなかったけど、あの男、殴らないと気がすまなくなった。私に働く義務があるっていう奴は獣達を道具にしろっていうのと同じだと理解してる?この状況で必要って、つまり、ダイスケ達にまた人間の代わりに死ねってことだわ。




 vol 71 ガチでNT‐11地区の乱闘


 獣使いは準備期間がないと無力だ。しょせんは獣あっての私で、人海戦術で圧倒出来なきゃその辺の一般人と何も変わらないんだもの。軍隊を相手にダイスケだけで切り抜けるには騎獣士としての能力が平凡過ぎ、ダイスケだってモイモイの中で飛びぬけた運動能力があるわけじゃない。それにダイスケだけは無理を強いて危険に晒したくない。でも私単体じゃ軍人相手に1人でも傷つけられるか怪しい。


 このままじゃヤバいと思っていたら、考える暇を与えず連中の方が山狩り奇襲で襲いかかってきた。がむしゃらに殴りかかってみたけど私は不意を突かれてあえなく気を失った。

 真っ暗な意識の中で頭を占めたのは、ダイスケは無事だろうか、他の連中はまあ大丈夫だろうな、目が覚めたらいの一番に舌を噛み切ってやろう、ってことだった。


 車の中で目が覚めて、前にもこんなことがあったなあと思っていたら、いつも通りにダイスケが車を引いている。

 車の後ろの関所の方角は嵐が荒れ狂ったように山が抉れていた。ボロボロのロア、ペルピィ、コヨリは何食わぬ顔で目覚めの挨拶をする。痛む体を押さえながら事の顛末を聞けば「我が輩の眠れる力が目覚め、千切っては投げ、斬っては唸りっぽいことをしたのだ」とかコヨリがふざけた口をきいた。狼蛇の1匹すらまともに切れないへっぽこ剣士が軍隊を相手にどうできるってのよ。ペルピィは「それは冗談として、急に山が爆発したんだよ。理由なんてよく分からんねえな。運良く大混乱になったから逃げてきたんだよ、命からがらだったがな」って説明だ。


 山が抉れる程の理由の分からない爆発で私達が逃れた。また、何故か、運良く、ねえ。




 vol 72 GM‐3地区で犯罪包囲網


 GM人形市というひたすら街道にGM人形が売られている道を歩いた。ダイスケの手綱を引きながら。ここ、車禁止で迂回すると酷い山道を3つ超えるはめになるのね。色んな大きさと表情のGM人形がズラーと並んで売られているんだけど、個体より壮観というか、なんか不気味だわ。


 人ごみも結構なものだったんだけど、歩いていたら大量の役人に取り囲まれて物凄い目立つはめになった。追ってかと思ったら私でもロアでもなく役人が剣を向けたのはペルピィ。まあ、悪人面してるものね、メガネかけてたら少しマシだけど。

 なんだか役人がわめていている中でペルピィがド派手な煙幕をまいたもんだから状況を把握する前に手を引かれて疾走するはめになった。東北のどっかで「目撃し、追撃」がなんちゃら「我が地区の恥を討伐」かんちゃら言ってたかしら?

 それより最近車にばっかり乗って運動不足だったから息切れしてさぁ、それどころじゃなくてさぁ。感を取り戻すために少し運動しなくちゃダメかしら。とか言ってこういうのって明日からとかばっかり言って結局やらないで過ごしちゃうのよねぇ。


 それにしてもペルピィ、やっぱりろくでもない犯罪歴がありそうだ。自己中の露出狂コヨリがGM人形をじっくり見られなかったことを抗議しまくっていたけど、ふてぶてしい厚顔で「俺のせいじゃねえよ、人違いだつってんだろうが、ババア」なんて言い返して武器持って対峙しとった。

 なんでもいいけど、車の中で暴れたら即追い出す。




 vol 73 コヨリ離脱?GM‐4地区


 フラリといなくなるのは前からだけど、必ずいつの間にか車の中に侵入しているのがコヨリのパターンだった。でも今日は朝になっても戻ってこなかった。置き去りにしてもまた現れそうなのが連中なわけだが、何かあったのではないかと心配しないでもない。いい加減、結構な付き合いになってきちゃったからね。

 でもこっちは追っ手がある身だし、リスクを負ってまで待つ意義もない。私といた方がそもそも危ないわけだから。でも危ない目にあっているところだといけないのでGM地区によく生息してるから不審がられることもなさそうな卵鶴鬼ランカクキにコヨリの行き先を軽く見届けてくれるよう頼んだ。GMに入ってから懐いてくれていたから離れるのを嫌がったけど連れていけるわけないし、あの子ならいざとなればコヨリを助けるのに適任だ。なにせ翼を持つ小鬼の異名を持つし、鼻が利く。


 ロアやペルピィも特に騒がなかったし、少しは身軽になったというもんよね。変な露出狂のオバンだったけど、訳あり臭い男2人と違って身綺麗な立場なわけだし。

 露出狂という変態ではあったけれど。


 それより役人がペルピィを追ってくるのが酷く迷惑だわ。自分だけで手一杯だっつうのが分からんのか、馬鹿共め。




 vol 74 GM‐7地区で増殖した


 まずね、あれよ。ペルピィを追ってる役人の中で目立ってたのがいたのよね。モヒカン。うん、あれがロアのストーカーと手を組んで車を崖が側面にくるような場所ではさみうちしやがったのよ。面倒が倍増。いっそ崖からダイスケとダイブして逃避行してやろうかと思ったわ。

「ここで仕留める。貴方もこの男が何者かよくご存じのはずでしょう。それが行動を共にするなど」とかロアに訴えかけていたストーカー。モヒカンも「NR地区の本拠地で仲間も捕え、アジトは壊滅。もはや貴様の悪行もこれまでよ!」みたいな。


 実のところ、進行方向にいるモヒカンを車で轢いてしまっても良かったんだけど、埒があかないし道が狭すぎてちょっと大怪我する可能性が高かったもんだから、珍しく両者の言い分を真面目に聞いてあげたわけ。私だってたまには聞く耳とか他人ごとに取り組むことを多少はしてみるのよ。そうしたらモヒカンがペルピィは盗賊で平和な世の中を荒らす大悪党だって言うわけよ。極刑に処すべきなんだけど、なかなか逃げるのがうまくて捕まらなかったと。だからペルピィに味方するなら幇助罪だぞってぇのよ。知るかあ?

 ペルピィの言い分はあれね。盗みも強盗もやるけど殺しはしないから国の処罰は相応じゃないってさ。悪人であるのは認めるけど観念なんて冗談じゃないと。まあ、そりゃそう言うわよねえ。でも、強盗とかしといて標的無傷ってのは無いでしょう。絶対、ボコにしてるはずだわ。特に生活とか人生にまつわる細かい理由的な職業選択じゃないらしいし、捕まっても同情の余地はあんまり無いわね。


 ただ、だからどうこうって突き出す力が私にあるわけじゃないのよ。今までだって追い出せなかったんだから、追い出せないものは突き出せない。だからって役人に襲われるのは不本意。では仕方ない。ダイスケにモヒカンに体当たりをかまさして、そのままくわえて走るように命じた。つまり人質よ。このモヒカンを盾に道の先で潜んでいた伏兵を下がらせた。明日にはどっかの森の中でキャッチ&リリースしておけば問題無いわ。


 今日だけモヒカンに餌を与えて面倒みた。さすがに人間の世話をしたのは初めてだわ。




 vol 75 モヒカンをリリースしたNN‐1地区


 せっかくだから関所を越えるまで人質として使ってからモヒカンを捨てた。「何かに目覚めたか、目覚めてないか微妙だったぜ、あの役人」「プシィ、君は獣使いというか、人間の調教もアレなんだな」みたいなことを野郎2人に言われた。意味は分からなかったがダイスケにどつかせておいた。肉球パンチといえど大型獣のは本来なら大の男を軽々と吹っ飛ばす。ペルピィは避けてやがったし、ロアは例の頑丈さでもって地面にズベッと転がされる程度だった。この連中に遠慮が必要ないので将来、私はやりすぎないか心配だ。自重せねば。


 どうでもいい野郎共のことは良いとして、NN地区といえばソバと坂滑りね。長い草が滑りやすくて、木が生えるのを邪魔するものだからNN地区の山には木が比較的少ないの。だから山頂で草に足をとられて一度滑ろうものなら引っかかることなく麓までツルツルツルーよ。おかげでよく山の麓にはクッションレールが敷かれていたり、木にはクッションが巻かれていたりするの。標識に、ずっこけ注意なんてあるのココだけよね、多分だけど確か。

 車が通る道は辛うじて整備されているけど、このツルツル草が生命力逞しくて交通事故も国で一番。危ないから私も車輪に鎖を巻いて滑り止めの粉を塗ってと大出費だわ。


 移動が制限される分、魔物に襲われる回数も増えたし。

 それでもまあ、前と違ってペルピィが盗賊らしく戦闘でそれなりに働くようになったから戦いにおいては楽になったけど。




 vol 76 NN‐4地区で人災と獣災について考える


 悪夢のヴェンパーがNT地区でまだ暴れてるらしい。かなり酷いらしく、魔物騒ぎよりも瓦版にでかでかと一面を飾っている。どうやらあの関所の壁の壊れ具合じゃ足りなかったみたいね。けして狭くもないNT地区の3割がクレーター地帯になったそうだ。しかもその地底から地竜ジリュウがザックザク出現したと。地震を起こしながら地中を動き回る巨大モグラの大発生というわけ。


 それが実際に地震を起こして大災害を引き起こす前に退治した……ってことになると思うんだけど、それより何よりヴェンパーっていうのは手加減を知らないっつうか非常識な遠慮のなさで大魔術をぶっ放つのよね。

 魔物への恐怖よりも悪夢の所業が目立って嘆き記事になっている。


 まあ写真で見る限りでは魔物の被害と魔術での被害と比べてどっこいどっこいかもしれないわ、こりゃ。なんか町の復興とか大変そう。




 vol 77 ずっと瓦版に暗い記事みるNN‐8地区


 ねえ、ダイスケ。獣や魔物達の間で何が起こってるのかな。さすがに関係無いって思いきれなくなってくるわ。だって増えて害をなせば結局は退治しようって動きがある。それって怖いことだ。結局のところ獣と魔物が大量に生まれて、大量に死体を積み上げている。

 私は善人じゃない。愛する子達の死を悼んでも、襲ってくる知らない子にまで慈悲はかけない。肉だって野菜だって食べる。

 でも、なんだろう。なんかね、なんか、人間に害のある子達に悪気はなくって、大発生しているのだってその子達の意思じゃないっていうのを考えると、悲しくなるってのは、いけないことだろうか。どうにも出来ないなら、傲慢に構えていなくてはいけないかな。


 人間に戦わず無抵抗でいろだなんて言えない。

 でも、でも、私の愛する子達にとって、それはなんて残酷なんだろうと心が沈むんだよ。




 vol 78 食事が喉を通らないNN‐10地区


 ダイスケが心配している。私に食事を与えようと自分のご飯を差し出してくる。とても悪い心配のかけかただね。ごめんね。

 ごめん。

 馬鹿兄の言葉は、いわばハッキリした意志がある。私を巻き込もうとするのは最低だけど、国にある全ての人間を守る使命感っていうか、一貫した行動がある。合理的で非情さはあるけど、どの作戦でも最終的には自分のためっていうんじゃなくて国に住む人間のためだ。


 私は誰のため?獣達のためだっていうなら、この大発生で退治される子達が…いわば大虐殺されているわけだから、怒るべき?悲しむ?守ろうとしなくてはならないだろうか。愛する子達はみんな魔物に殺された。ダイスケだけがここにいる。

 ダイスケのためかな。だったら、他に目をやっちゃいけないかな。


 駄目だわ。挫けてる。




 vol 79 NN‐14地区で小指骨折


 ツルツル草のことを忘れてずっ転げて滑って木に衝突した。追いかけてきてくれたダイスケが木に着地して木の方が折れた。更に山の麓まで転げ落ちた。


 散々だ。

 忘れた頃に被害にあう。なんかもう嫌。もう寝る。




 vol 80 NN‐15地区の関所


 ペルピィがご自慢の盗賊的な抜け道を披露して関所をかわし、ひっそりと魔物被害で滅びた村に到達した。まだ瓦版で記事になっていないので誰にも知られず全滅したんだろう。

 遺体は無残な状態で千切れた肉片やらで散らばっていた。食べられたんだ。小さな村で、それにしたって……。


 墓を作った。あの子達に作ったみたいに小さな欠片を集めて1つの共同墓地に。

 もう作りたくなんてないよ、人間の墓も、獣達の墓も。もう止めてよ。お願いだからさぁ。

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