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日記2

 vol 21 YSー2地区の水浸し


 トンネルから抜けたらダイスケも車も泥だらけだし!凄く長いし、埃くさいし、気持ち悪くて仕方なかった。

 で、ドボーンよ。

 外に抜けてからも超不機嫌だったダイスケが猛ダッシュで車ごと川に飛び込んで車輪が1個外れちゃったさ!

 果物天国のYSの森で果実に舌鼓を打ちつつ、川に服のままつかりながらダイスケと水遊びして楽しんだ。


 ロアールの「車輪の仕組みがよく分からないんだ。せめて川から車を出すのにダイスケを貸してくれないか?一人でやるにはちょっと」ってな感じの泣き言はスルー。結局1人で引き上げてた。あいつはもしかしたらダイスケと力比べが出来るくらい力がありあまってやしないか。


 ペルピィがダイスケに対して「飯を抜くなり、火で炙るなり、鞭で打つなり、もっと厳しく調教しろ」とかなんとか言うので、ダイスケに踏みつけさせて胸毛フワフワの刑にしたったわ。

 こんな目にあわされたら水浴びぐらいしたいわよねぇ、ダイスケ。






 vol 22 TYー1地区 大都会


 獣車がようやく直った頃には果物も飽きたのでTY地区に移動。既に関所やら役人がたくさんいて、ここに来て閉じこめられるはめになった。

 ゴミゴミした都会だから役人に難癖をつけられることも無いだろうけど、物価が高くて財布が痛くなりそう。車の中で寝起きするにしても地元より100円もパンが高いってどういうこと。倍じゃん、倍!

 怒り心頭してたら例の如くロアールが「まあ、まあ、これでも食べて」ってショートケーキを買ってきた。久しぶりで美味しかった。

 こいつの財布にはどれだけ余力があるのだろうか。


 瓦版を何処からか拾ってきた金欠ペルピィの方はシケモクをくわえながら(火は絶対つけさせない。私とダイスケが嫌いだから)「面白そうな記事があるぜ」って読み上げる。なんか含みのある笑みで。

 TYの英雄騎士が初めて征伐に失敗して責任を負い辞職した事件について、この騎士の復帰を願う嘆願書をみんなで集めてるっていうニュースだった。本人はTY地区を出て行ってしまってるけど例の雷魚人の件で目撃された、っと。

 生きた伝説、騎士ジューダイン。その征伐失敗時にも山程のオーガの大群から仲間の死体を踏み越えて、何十本もの剣を折りながら町を死守している。にも関わらず、逃げ帰ったオーガの大群の一部が別の町に流れて大惨事となったことで責めたてられていた。アレの顛末か。

「ジューダインを見かけたらご一報を。金一封だそうだぜ」ってペルピィがニヤニヤ笑っていた。ロアールがペルピィにもケーキを渡して「いつか追い出してやるからな」とか呟いた。


 いや、お前もな。






 vol 23 TYー3地区で道が混んでる


 関所で人の出入りが制限されてるせいで人口密度が更に増してるよ大都会。山や野がほとんど無くて町続きなもんで地区間も人も馬車も多い。

 そんなわけで広大な地域じゃないけど中々進まないんだもん。ダイスケもイライラして可哀想だよ、これじゃあ。

「獣車はやっぱり珍しがられてんなあ」ってロアールが。そんなに注目されるとは思ってなかったのに厄介な。確かに騎乗や車を引くのは獣より馬が主流だけど西では獣車も少なからず好んで使う人はいたんだもん。国の最強軍部、騎獣隊の本拠地のある場所でもあるからなのかしら。


 目深に帽子をかぶっても視線をグサグサ感じるわ。そんなわけで始終イライラしてたらペルピィが「TY出ればいいじゃねえか」だってさ。簡単に言ってくれる。

 関所を越えるためには身分証明と荷物検めをされる。通った記録も残されるのよ。調べたら私がここにいるってバレちゃうじゃない!せっかく樹海を通ってまで回避したのに。






 vol 24 まだ軟禁中のTYー6地区


 ペルピィがまた瓦版を拾ってきた。

「関所や役人がやたら増えた理由がやっと判明したぜ」って、えー、普通はそういうのトップシークレットじゃないのぉ?って思った。

 それともなりふり構わないぐらい血眼になったか。


 国を統治するための軍隊の中でOS地区に本拠地を置く騎獣隊はその機動力や攻撃力から最強と謳われる。こいつらは子供が憧れるぐらいの花形職なんだけど、それが存続の危機に瀕してるんだってさ。それもこれもとある獣使いが辞表を出して受理もされていないのにさっさと行方をくらまして脱走したからだって。それを連れ戻すために国が総力をあげるという無駄を行使してますよーっと。


 獣は言うこと聞かないし、獣にさせている危険な仕事は手詰まりになるし、新しい獣の供給が事実上ストップしているという。

 受理?されるわけないの知ってて誰が待つかっての。こんなもん無断欠勤で実力行使に限るわよ。

「んで、その獣使いが担当していた莫大な獣の調教の手が回らず、脱走したプリシラ・チェイカル(24)の上司であり兄でもあるレオンハルト・チェイカル(27)は自分が必ず連れ戻すと……」


 絶対に連れ戻されないわよ。






 vol 25 TYー9地区らしくフルコース


 やっぱり旅と言えばおいしい物巡りよね。東のラーメンとかうどんは濃過ぎて食べれたもんじゃないけど、TYにだって物価がお高くとまってるなりに美味しい物もある。

 例えば鴨ソバ!

 あそこはロアール贔屓のお勧め店らしい。というか、貴様、ここが地元か。

「これは旦那!ついに帰って来られたんですね。ワシらも応援してますんで」とか涙ながらに言われて、なんか焦ってた。


 他にも今日はTY3星ホテル仕様のフルコースをおごって貰った。ペルピィがロアールに私が食べたがっていると言ったらしい。また金欠か、ペルピィ、やり方がせこいぜ、ペルピィ。

 それから私がお前なんかにおねだりするもんか、ロアール。口に出さずに貰えるもんは素直に食べるけどね。


 それから瓦版の面白案内で「貧乏神の社」があると聞いて寄ってみた。貧乏神退散と3回叫んで貧乏神の神木を殴って蹴って投げるらしい。ペルピィが真面目にやっていた。逆に逆襲されんじゃないのか?とも思いつつ。


 お金は大事だよー。






 vol 26 買い物お久のTYー14地区


 ちょっと買い物するために車に鍵をしてダイスケと一緒に商店街をプラプラしてたのさ。なんだか久しぶりにゆっくり買い物した気がする。

 ああ、ちょっと使い過ぎちゃったな。でも乗車料1人だけ値上げしたお陰で最近は使うよりも収入が潤ってるから大丈夫。こんな利点でもないとやってらんないわ。


 旅を始めてから思ってたのよ、可愛い首飾りがどうしても欲しいって。だから買ったの。丸いリングの中にリングがあって、更に小さいリングがずっと小さくなるまで続いてて、中に羽がついたリングが入ってるのを!

「また獣なんかにそんな高い物を!?」って例によって荷物持ちペルピィがウルサいけど。

「自分の分じゃないんだ……」とか財布のロアールもウルサいけど。

 何言ってるの?可愛いでしょっ、うちのダイスケ超可愛いでしょ!!!

 つけてあげたらダイスケは手でパンチングして遊んでいた。






 vol 27 変なおっさん現るTYー17地区


 TYに入ってから変態とか変人とか痴漢に遭遇しすぎだよ。既に4人だよ。思わず武器屋に撃退用の武器を買いに行っちゃたね。触ろうとする手に突き刺せそうな物を持ち歩こうかと思って。

 特にその内の1人のおっさんが割としつこいんだよね。「ジューダインにはまだ将来が」とか「一介の護衛で治まるような才能では」みたいな意味不明の言動を繰り返してTYー14地区からずっとストーカー。つか、ジューダインって誰だよ。ほぼロアールが路地裏に連れてって撃退してたけど、これが逃げ切れないし!


 でも昨日はロアールがいなくて、私の方が路地裏に連れ込まれて怖かった。ポケットのクナイを捕まえてる腕に突き刺してやろうと思ったら、ストーカーの次は露出し過ぎなおばさん剣士が現れてポカーンだよ。「その子の手を離したまえ。我が輩が相手になろう」

 どっからツッコもうみたいな。

 おっさんもさすがにポカーンとしてたけど、私の方を見て今にも自分の腕に刺さろうとしてたクナイを発見して更にギョッとなってた。

 ギャーギャー変人同士が言い合ってる間に私は逃走。大都会って、やっぱ怖い!






 vol 28 TYー20地区で再び


 もうやだ!

 TY脱出するしかないわ!!


 あのおっさんが獣車の前に飛び出して手を広げてたんだよ、道ばたで。先回りされてたなんて恐怖だよ!!

「バジル、いい加減にしてくれ。全て終わった事なんだ。俺はプシィとの気ままな旅を楽しんでる。ほっといてくれ」って……ロアール、お前の知り合いだったのかYO!!それより勝手に引き合いに出さないで欲しい。無理矢理獣車に乗り込んでるだけだろうが。

 でも私のストーカー改めロアールのストーカーは嫌な納得の仕方をしたらしく「一時の気の迷いでこんな小娘と駆け落ちなんて後悔するに決まってる」とか「その娘は過激な面があって、君は外見で騙されて」と散々な良いようで見当違いな説得にかかってきた。

 迷いは無い、レッツ轢き逃げ。






 vol 29 TYー23地区でついに関所


 関所は嫌だけどストーカーも嫌!!

 前みたいにトンネルも山も無いからどうやってかわそうかと思った。学者なんだからいい手は無いのかペルピィに聞けば「当分都会で過ごしてプリシラ・チェイカルが捕まるのを待てば?」とか言うし。

 ロアールは考え込むようにして「しかし、チェイカルと言えば1人で千の獣を操るというかなりの大物。そんな獣使いがなんで脱走なんて」とか言い出した。そしたらペルピィまで「天才チェイカル兄妹ねぇ。獣使いの代名詞みたく言われてる有名人なわけだが」と知った口をきいた。


 そんなわけでストレス満点でさ、私はダイスケにまたがってフワフワの鼻先を撫でたりヒゲをつまんで引っ張ったりしてたのよ。そしたら関所前でいつかの露出狂剣士が争っているじゃない。関わり合いになるの嫌だわぁと思ってたら目も開けてられない強い風がふいて、なんとそのちょっとした間に関所の役人が誰もかれも地面に横たわってるじゃない。露出剣士も消えてるし。

 降ってわいたチャンスは逃さずゲッチュー。並んでいた関所待ちの集団は一斉に関所をくぐりましたとさ。もちろん私もやるわよ。


 関所突破、みんなでやれば怖くない。






 vol 30 KGー3地区はKG鳥の丸焼き


 KG鳥捕まえ放題っていうのに参加した。湖で泳いでるのをボートで追いかけて捕まえるんだって。最初は出来るかーーー!!っと思ったけどペルピィが楽勝だって言うから任せてみた。

 ロアールが漕ぐ。ペルピィが狩る。それがまた凄い数叩き出しちゃったのよ。3人乗ってその速度は反則だと店の人が嘆くもんで、驚くべきはペルピィの手の早さというか動体視力というか。ロアールの漕ぐ力が強過ぎて鳥を追い越したー!と思ったら瞬時に鳥の体を攫っちゃってさ。KG鳥の素早い身のこなしは結構なものなのよ。だっつうのにペルピィの身軽さは目にも止まらぬって感じ。


 力は無いし、頭もそんなに良くないし、探求心も勉強する気概も無いみたいだし、ペルピィもその特技を生かして別の物になれば良いのにと思った。KG鳥が香ばしくて引き締まった肉が大変美味だし、ペルピィの適正職なんてどうでもいいんだけども。






 vol 31 ナッツわさわさCBー3地区


 関所を越えないために再び回避ルートとして今にも壊れそうな忘れられた吊り橋でCB地区に侵入。妙な道ばかり知ってるわよねペルピィ、学者だから?


 それはともかくCB地区、ここナッツばかりじゃない……。何かにつけて料理に加えられて、いや私も甘豚ナッツ炒めは好きだけどさ、生産1位だからってここまで料理に利用し尽くさなくてもいいでしょうが。

 ダイスケは気に入ったみたいでCBナッツをガツガツ食べて幸せそう。まあダイスケが幸せなら良いか。私には前に捕まえたKG鳥の乾燥肉がいっぱいある。


 ナッツもアレだけどさぁ、ロアールもペルピィも最近車の中に自分の私物が増えてきてるんだよねぇ。本格的に居着く気だよねぇ?あれそういう事だよねぇ?

 イラッときたので荷物を外に放り捨ててやったら、ペルピィの鞄からナイフと縄と白い粉と変な形の金属棒とかよく分からないものが出てきた。わざと逆さに引っ繰り返したからなんだけど。なんじゃこりゃーと思ったら「ぎゃー!ヤクが駄目になった!?」って頭を抱えるペルピィ。それを目にした瞬間ロアールがいつもの如く拳を振り上げて「性懲りもなく悪事に手を出して」ってな感じで飛び掛かっていった。

 車の外で騒いでいる間にせっせと荷物を放り出し終えた私は、最後に魔術のあんちょこ本をロアールの後頭部に投げつけて「ダイスケ、GO~」と合図。賢いダイスケは超ダッシュでついに寄生虫を置き去りへ。


 はー、これでやっとダイスケとのんびり旅ができるのね。






 vol 32 CBー7地区で変人達の再臨


 ロアールのストーカーが見当違いにも私を発見して馬で追っかけてきた。

 魔術師はもう捨てたっていうのに人の話を聞きやしない。確かに獣車の方が情報も手に入りやすくて見つけやすいだろうけどさ。

 で、街道でカーチェイスしてたら2刀流の露出し過ぎなどっかで見たおばさんが車の前に飛び出してきてダイスケが車ごと大ジャンプ!!凄いよダイスケ。馬車ではありえない光景だよダイスケ。でも私は御者台から車内にぶっ飛ばされて背中を打っちゃったよダイスケ。


 痛くてのたうち回ってたら車の後ろからおばさんが飛び乗ってきた。ダイスケったら立ち止まっちゃ駄目じゃない。と思ったらダイスケ急発進。

「少女よ、急いで逃げるのだ!」

 露出剣士も焦って急かすから何事~って車の後ろを覗くと露出剣士が飛び出してきた森からオーガの大群が猛烈に突進してくる所だった。後ろから追いかけてきてたロアールのストーカーも慌てて馬を引いて逃げる。

 ここら辺の地域、完璧にオーガの異常発生起こしてるじゃない。






 vol 33 IKー6地区やっと落ち着く


 オーガの事件で大騒ぎしてる関所をサラッと無断で通り抜けてIK地区に来た。案外関所って何処もいい加減なのね。何故かタイミング良く見張りがいなくなってたり居眠りしてたりさ。


 にしても、どっかの学者じゃないけどさすがにオーガの件は気になって瓦版でCBの様子を調べたら意外にも被害は出なかった模様。

「ほほう、英雄騎士ジューダインと大盗賊ザカリアルによりオーガ鎮圧。今回の被害は無しか。さすがといったところか」なんて言って横から覗き見てる露出剣士はまだ車に乗っている。オーガの心配も無くなった所でさあ降りろという言葉は受け流された。


 そもそもなんで露出剣士はオーガに追われていたのか、よくも運良く逃げ切れたものだ。なんて言葉を漏らすべきじゃなかった。魔術師の時と同じような流れで自己紹介を始め「我が輩はコヨリという見たとおり剣士で」って、剣を持っている以外の見た目は露出狂なのよ、あんた。思ったまま指摘してあげたら「剣士になろうと思ってまずはスタイルから入ったのみ」とか間違った返答が返ってきた。一体どんな物を参考にしたのか知らないけど、剣士に対する偏見の強い駆け出し剣士であることはよく分かった。

 だって器用に両手で剣を振り回すけどそのへっぴり具合といったら羊虎ヨウコを殴るだけ殴って逆上させた上に切れてナーイを実践する奇跡の剣筋を披露するんだもん。

「なにごとも初めは失敗するものなのだ」っておばさん、私の迷惑のかからない所で失敗してよ。そして出て行ってよ。






 vol 34 無料乗車でIKー4地区


 このオバン、車から降りない上に金も払わないし食料まで分けてくれって図々しく無い!?

「嬉しい事は2人分、悲しい事は押しつけろ。それが世の理というものぞ」って、それ寄生虫だから。パラサイト家族だから。何、この質の悪い人!?


 ダイスケ、ダイスケ、そのフワフワモコモコの体で私を癒してちょうだい!寝る時はダイスケのお腹にくるまって掛け物。この安眠時だけが安らげる時間だよ。こんな不審者に大事な荷物を持ち逃げされないよう私物は車の床倉庫に鍵をかけて隠してはあるんだけど落ち着かないったりゃありゃしない。堂々勝手に車の中の物を弄るわ、荷物多いわ、化粧濃いわ、露出狂だわ。その上、妙に隙が無くて荷物ポイ作戦を決行するタイミングがつかめない。魔術師と学者の時も同時に油断しているのをみてやっと捨ててきたってのに。

 いっそ荷物を減らしまくってダイスケに騎乗して車の方を捨てるべきなの?荷台を作れば走りにくくてもダイスケは楽だろうし。でも貯金はたいて買ったのに、こんなことで捨てるなんて腹立たしいにも程があるんだが。






 vol 35 IKー2地区で今更だけど茨だらけ


 露出剣士のせいでIK地区の風景を楽しむ所じゃなかったけど、結構IKは特殊な風景が楽しめるんだよね。

 ダイスケが足を引っかけないか怪我しないか心配だけどIK地区は茨地帯。太くて大きなIK花の群生地で蔓にも葉にも花にもトゲが鋭く立っていて、あらゆる木に巻き付いたり建物を貫いている。動物よりも植物の方が生存主張の強い珍しい所ね。


 ただ、もしもこれが別の地区まで伸びようとしたら根まで焼き払って食い止められる。そうじゃないとIK花にあらゆる森が支配される。それで危険植物にも指定されてるってわけ。だからIKの周りは地区の分け目が地面の焦げ目でくっきりついている。

「IKは既に森も建物も支配されつくして根深い状態なのだ。これを燃やそうとすればIKは焼け野原であろう。IKの深刻な社会問題なのだ」と露出剣士が解説してきた。種を服につけられないよう地区の分け目の関所で洗濯まで強制されてる徹底ぶり。そう、ここは平常時から関所で固められて厳格に管理されている地区だって話なの。

 過疎化が問題になるのも時間の問題よねー。





 vol 36 行き詰まったIKー1地区


 茨問題で徹底的に出ていく人間を厳しく身体検査するIKの関所は簡単には通れそうになかったりした。とってつけた最近に出来てるものじゃないし、ここの関所は年季が入ってるものね。動物や狼蛇すら這い出る隙間の無い厳しい環境で怪しいマネをすれば射殺されそう。でもこの関所も例外じゃなく身元証明がネックになるし今回はどうやって突っ切ればいいのかしら。


 ここで初めて変態から「関所を避けているのか。プシィ、君は罪人なのかね」ってまともなツッコミを受けた。そもそも本名名乗ってない次点で怪しいだろう。プシィって明らかに愛称じゃん。まあ、名乗らないことに関しては変態に名前を覚えられたくないってのが一番の理由だけど。

 答える義理は無いから、でかわそうとしたけどあんまりにもしつこいから胸中にずっとあった気持ちを漏らしていた。

「罪深いのは軍の方よ。命の重みを知らない罪」

 そうよ、だから私は旅に出た。口に出して改めて思った。私はダイスケが大好きなのよ。マカもロイスもメメもカルロスもみんな大事だった。だからあの仕事はもう続けない。捕まったって復帰なんてするわけがない。






 vol 37 起きたらSMー2地区


 車の中で目が覚めて気づいたら御者台に露出剣士がいた。ダイスケが走ってるのに驚いて外を見たら茨が無かった。

「関所の連中は忙しいらしくて服だけ取り替えたらすぐに通してくれたのだ。何故かは分からないがね、何故かは」とか露出剣士が言っていた。

 起き抜けでよく分からない頭で、ダイスケがなんで私以外の言うことを聞いて走っているのか驚いてしばらく喋れなかった。でも、ダイスケは私のために動いてくれたみたい。私が関所を通れないって悩んでたから顔をすり寄せて大丈夫?ってしてくれた時には胸がいっぱいになった。

 それにしても忙しいから身分証明も調べず通したってのはありえない。役人はどちらかと言えば、あの大量のオーガ事件みたいな命に関わる緊急な事件でも無ければ、下手すれば何年だって待たせるはずだもの。ところで私、服脱いだ覚えないのに着替えてるんだけど。


 ……眠っている空白の間に何が……。






 vol 38 SMー1地区すぐに関所、そして


 追いつかれたっ。

 またしても先回りだなんて、こしゃくな。

 魔術師のストーカー、じゃなくて本人の方にだ。


 狭いSM地区ですぐに関所に行き当たって、さて次はどんな奇跡を起こそうか?それとものんびり旅気分を諦めて正面突破?とか迷って車を止めてる時に入り口に影が。乗り込んできたのは「この御者が、よくもやってくれたな。ヤクは台無し、アジトは壊滅、それでも新しい人生歩もうとしてる俺の淡い人生計画をお前はぁ」とプチ切れてる学者だった。そんなもんだから剣士が「む、不審者め!」とか学者に斬りかかって、学者はそれをナイフで受け止めて、それを魔術師が分厚い魔術書で払って止めて「プシィ、捨てるなんて酷いじゃないか!拾ったら最後まで面倒を見ないと」と流れるように嵐が舞い込んだのよ。


 色々と全員に満遍なくツッコミたいところだけど、とりあえず、でかい図体して拾われた子猫気取りか、この魔術師が!!

「俺は仲間じゃないか!」「お前らみんな寄生虫じゃああああ!」なんてやりとりをして、結局、結局、また居着かれちゃったのよ!!

 私が押しが弱いんじゃなくて絶対こいつらが強引過ぎるのよ!!






 vol 39 まだSMー1地区


 ギャーギャーと言われるのは分かってたけど「名前を早くも忘れられてる!?」「何処の鳥頭だ」「我が輩と行動して何日経ってると思ってるのだ」って責め立てられた。文句の半分以上が名前に関してってどうなの?別の苦情がもっとあるでしょうに。どうせ受理しないけど。

 はっきりきっぱり言ってやったね。「私は貴方達を仲間だとは思ってないし信じても無いわ。自分自身、関所を避けなければいけないような人間だもの。名前を覚える気は無いのよ」そう冷たく突っぱねのよね。なのに「出来れば関所を避けたいのは自分も同じさ」と言い出す魔術師。「どうでもいいんだよ、そんなこたぁ」ってこっちのことはまるで無関心な学者。「命の重みを知る者なのだろう。台詞が気に入ったので我が輩は構わん」と呆れた倫理観の剣士。


 だから、あんた達が納得するかしないかじゃなくて、私があんた達が邪魔で同行を認め無いんだってぶわあああああ!!!なんだ?もっと直接的かつ物理的に排除しなきゃダメってことか!?






 vol 40 関所突破!TGー5地区にダイブ


 どうやって関所を越えるかと顔をつき合わせる3人から離れて私も考えていた。なんかもう本当に車捨てようかなぁ、と。それならダイスケにまたがって関所なんて楽々突破できる。そうして半ば本気でやろうと決心が固まってきた。


 そんな頃合いになって例の如く魔術師と学者が言い争いを始めた。それに輪をかけて剣士が油を注いでいるよう見える。かと思えば「プシィ、作戦決まったから車に乗って」と魔術師に手招きされた。ブー垂れた私は車じゃなくてダイスケにまたがった。

 そんな私の行動なんぞ歯牙にもかけず連中はいつも通りミラクルマイペースで、いや、いつもと違うことをし始めた。お互いの服装を交換し始めたのよ。

 魔術師はマントを脱いで剣士の剣を腰に差す。学者は眼鏡を取って髪を片手でぐしゃぐしゃにしてナイフを腰に差す。それから剣士は眼鏡をかけてマントを体に巻いてローブのようにする。


 なんだかあんた達、いつもの格好の方がコスプレみたいにシックリとしてるわね。で、何をしたかって?

 まずは学者が関所に行って何事か関所で喋っていると不穏な空気が流れてくる。役人が引き腰になっているものの騒ぎになるか?って所で魔術師が近寄っていって学者と言い争いを始める。

 何やってんのよ、あいつらは。と思っていたら学者が急に逃げた。そらもう脱兎の如く。それとすれ違うように関所に向かって歩いていく剣士が見える。その剣士の手が無造作に役人達の体にポンポンと触れていく。その手が触れるやいなや役人が突然学者を追って走り出した。


 は?


 役人が全員まとまって関所をほっぽり出すなんて一体何をしたの!?なんて唖然としてチャンスを逃すような私ではない。すぐさま手綱を引いて関所に向かって車を走らせた。門を最高速度で突破したが、その車に飛び乗ってくる魔術師と剣士。それからしばらくすると何処からか学者まで車に飛び乗ってきた。


 この獣車、走ってるんですけど!

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