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第五理「良いとこ大阪!」

 それにしても良い匂いだ、流石は大阪といったところか。

 匂いを嗅ぐだけで異常に増えていく食欲、それに反比例してどんどん腹が減っていく。

 おお! 生の関西弁なんて初めて聞いた! 大阪に来たっていう実感が湧いてくるっ!これは旅行ハイになるね。三倉なんてテンション上がり過ぎて、修学旅行初日の中学生見たくなってるし。

 それにしても活気があって良い街だな。しっかりと目に焼き付けておこう。

 大声で客を呼び込む八百屋の若い店員。

 粘り強く魚を値切っているおばちゃん。

 威勢のいいたたき売りのおっちゃん。

 ヤンキーにぶつかって絡まれている三倉。

 客がたくさん入ってきて忙しそうな八百屋の若い店員。

 しっかり値切って買えて嬉しそうなおばちゃん。

 さっきよりも声を張り上げているたたき売りのおっちゃん。

 全力ダッシュでこっちに向かってくる三倉。

 ……………………え? いやいやいやいや、ナイナイナイ。三倉がヤンキーを連れてこっちに向かってくるなんてことは絶対ない。そんな不幸フラグ立てた覚えなんてさらさらない。

 これはあれだ。三倉のいた方にものすごくうまいたこ焼き屋があって、あまりのうまさにヤンキーと一緒に感動して、そのたこ焼き屋を俺に教えるためにこっちに来てるにちがいない。うん、きっとそうだ。顔が引きつっているのは気のせいだな。おっ! 10mぐらいまで近ずいてきたな。さあ、そのたこ焼き屋に案内してもらおう!

「三倉――。そのたこ焼き屋はどこにある――グハァ!!」

 いきなり四角い物を思いっきり額に叩きつけられた。

 当然、頭の方をかなり強く押されると重心は後ろに行くわけで。

 ゴスッ!! というえげつない音がして勢いよくアスファルトにダイブ。

「い、痛ったアアああぁぁァァぁ!!!!」

 気絶することさえも許さない程の激痛が全身(主に後頭部)に走る。

 地面にうずくまってのた打ち回る。今までの人生、いやこれからの人生でも最高最凶の痛みだったかもしれない。

 5分ほどたってようやく痛みが治まり、額のところに何かが乗っていることに気が付いた。

 なんだこれ、紙? ……ああ、さっき三倉がつけてきたやつか。えっと、なんて書いてあんのかな?

『相手したげて。PS、ごめん。ゆるしてチョ☆』

 主にpsの後が異常にイラついて思わず紙を握りつぶす。

 少し冷静になって、嫌々ながらももう一度紙を見てみる。

 相手? 俺に相手する奴なんか――うわぁ、暑苦しい。ヤンキーが五人……か。ちょーっと理不尽なんじゃないかな~、神様~。

「てめ―がアイツに代わって弁償してくれるんだってなぁ!」

 かなり怒気が含まれたヤンキーの声に思わずたじろぐ。

 ヤンキーのリーダー的な人の手にはぐちゃぐちゃのたこ焼き。そして、着ている白い服には斬新なデザインのように、日本列島そっくりな形で、ソースが付いていた。

そうか……だいたいの現状は分かった。これまでに起きたことを推測すると――

 三倉がテンション上げ過ぎて、前にいたヤンキーに気付かずにヤンキーのリーダ的な人とぶつかる。→ヤンキーのリーダー的な人の持っていたタコ焼きがぐちゃぐちゃになり、たこ焼きのソースがうまい具合に飛びちり、奇跡的に日本列島っぽい形で服に付く。→ヤンキー激怒。→ヤンキーが、三倉を捕まえて弁償を要求。→三倉は俺が払うという。→三倉が俺に紙を張り付けてダッシュでどこかへ消える。→ヤンキーが俺の所へ来る。

 で、今って訳か…… なるほど、驚くほど分かりやすい筋書きだったな。よし、そういうことならやることは決まったな。

 ハァ、とため息をついてやることの実行に移ろうとする。

 ジャンプを買いに行こうか……。

「おい! どこいこうとしてんだコラァ!」

「うっせぇ!! 角の再来じゃボケェ!!!」

 一瞬たじろぐヤンキー達。そんなに迫力あったか?

 いや、そんなことはどうでもいい。一刻も早く三倉を殺さなければ……っ! 少なくとも角で5回はぶん殴らないと気が済まない。俺が受けた痛みは倍以上にして返させてもらうぞ……っ! よし、そうと決まれば早速殺ろう。善(?)は急げだ!

 とりあえず、後先考えず全力で三倉のいた方へ走る。

「あっ!てめぇ待てコラぁ!!」

 後ろの方で、ヤンキーの声がしたが気にしない。とにかく、当てもなく走りまくる。

 2回目だな、こんなに走ったのは。走っていると時間が経ってだんだん冷静になってくるもんだな。結構周りがよく見える。この感じなら捕まえられそうだ。でも、1回目の疲れが残ってるのか、すぐ息が切れる。それでも、止まらない。人ごみをかき分けて、ゴミ箱を蹴り飛ばし、走り続ける。

 だが、いくら怒りで体力が増強されているとはいえ限界はある。

 1kmほど走ったところで限界が来て、完全に足が止まってしまった。

「ハァ……ハァ……ハァ」

 手を膝につき、空を見上げて、肩で息をする。

 全力で1kmも走れればいい方だ。それ以前に俺は剣道部だから、全力で1km以上も走り続けるほど足腰は鍛えていない。

 少し落ち着こうと、深呼吸をして空を見上げる。

「ん?」

 ギラギラとした太陽が照りつけている、雲ひとつない青空。その中にポツンと一つの白い点が。高いな……。高層ビルより上にある。その白い点をよーく見てみると空間移動体だと気付く。

 あれはたしか……甲子園にもあったな。

 見た目は完璧に空間移動体なんだが、ある場所が少しおかしい。通常の空間移動体なら重力の関係で、浮いているはずはない。なのにあれは、重力を完全に無視して浮いている。

 いったいだれがつくったんだ? そう思ったが、次に出てきた疑問がそれを打ち消した。

 ヤンキー………………どこいった?

 おいおい、ちょっとのんびリしてる間に近づいて来てるとかじゃないよな!

 周りを囲まれてはいないが、奇襲はされるかもしれない。

 とりあえず急いで周りを見渡す。電柱の陰や建物の横などの隠れやすい場所は用注意してみる。 

 ああ、いたいた。俺が走ってきた方向の100mぐらい奥にへたり込んでいる。まあ、それもそうか。現役の高校生で運動部に所属している上、毎日のように三倉にある意味鍛えられている俺に、大人とはいえ酒と煙草で体がボロボロになっているような奴が追いつけるわけがない。むしろ、100mしか離れてないのは大したものだと言える。よし、危険はほとんど亡くなったし早くあいつを殺りにいこうかな。

 俺はまた当てもなく走り続けることにした。


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