第一理「夏、交番にて」
「だから、間違えただけだって!」
ドラマとかでよくある台詞だな。そう思いながら俺――黒瀬遼は、身を乗り出して反論しようとする。
だが目の前にいる警察官のおっちゃんが「お前は、下手をすると逃げかねん」という理由で、椅子にロープで括りつけられているから、身動き一つとれない。いったいこいつは俺の何を知ってるって言うんだ。
しかも八月だというのに分厚いコートを着せられて、真横にはストーブを置かれている。
もうここまで行ったら職務質問という建前の拷問だ。
こんなにシンプルで質の高い殺意を抱いたのは久しぶりだ。
湧き出る殺意を何とか抑えて、一度冷静になろうと周りを見てみる。
……汚い。本当にここは交番なのかと思うぐらいとてつもなく汚い。特に机の上は異常だ。もう少しで天井に着くぐらい書類が高く積まれていた。
「あのなぁ、いくら兄ちゃんがバカでも男と女の区別ぐらいつくやろ。区別つかへんのやったら、良い医者紹介したるよ」
……ロープで括り付けられていなかったらぶん殴ってる。
「しかも、被害者の女の子が、〚突然鬼のような形相でこっちに走ってきて、腕を掴まれ、裏路地に連れて行かれた〛って言っとるんやから、どう考えても兄ちゃんが自分の欲望に従ったとしか考えられないやろが」
「ぐ……っ!」
言い分が間違ってないのがイラつく。
たしかに俺は女の子の証言道理のことをした。
だが俺だって男と女の区別ぐらい付く。なのにどうして間違えたか。それは三時間ほど前に遡る――