娘の真実2
‥ ◇ ‥ ◇ ‥
パタンと日記を閉じて、温くなったソーダを口に含む。もう直ぐ、ミネアポリス。乗り換えだ。飛行機が一時間以上遅れたから、乗り継ぎに四十分しかない。急がなければ。荷物を受け取り、空港内を走った。走れるようになったのもリハビリのお陰だ。カズミのお陰だ。
国内線に乗り換えるとランチの時間だからと、でっかいターキーサンドイッチと、コーラ、そして林檎一個が渡される。皮、向かないの?周りの乗客はそのまま囓り付いている。
これがアメリカか?苦笑してバッグにしまった。
「オー、マイ、ガッ!!」
熊のように巨大な男に私は抱き締められ、持ち上げられる。急いだかいあって、メンフィス空港には時間通りに着いた。が、到着早々、この歓迎だ。
「カズミ!君の友達は、日本人形みたいじゃないかー!」
巨大な体に、長い睫の可愛い瞳。JJは体中から愛情のオーラを出していた。そうか。と納得する。この愛情に、カズミは溶かされたのか。
「――久しぶり」
「少し、太ったんじゃないの~?幸せ太り?」
「まぁねー」
と、腹部を撫でる。
「え?何?」
「できた」
「何が?」
「ほら……」
そういってJJを見上げる仕草が可愛らしい。あぁ、恋する瞳だ。
「ベイビィって日本語で何て言うんだい?」
JJが言うのを聞いて、鈍い私もやっと分かった。
「――赤ちゃん?」
頷くカズミを見て、奇声を上げる私。
「マジでー、あんたがお母さんになんの?嘘でしょう?」
「本当に、嘘みたいだよねー」
「幸せなんだね」
「うん」
ふっくらした頬になったカズミが,微笑んだ。その笑顔が凄く綺麗で優しくて。私まで幸せな気持になる。
カズミ達のアパートメントは、ブルース発祥の地とされるビールストリートの傍にあった。窓を開けると、公園で歌うブルースシンガーの歌声が良いBGMになる。
「ねぇ、まだ聡のこと、好きなの?」
窓際に座ってその歌声を聞く私に、カズミが真剣な顔で聞く。
「そうだなぁ、どうだろう」
「初めての恋は、忘れられない。そうじゃない?」
「そうかもね。若しくは、カズミがJJに出会って恋に落ちたように、私もそんな人に出会えてないだけかも知れない」
「そうだね……」
「お腹、何ヶ月?」
「四ヶ月」
「楽しみだねー」
「触ってみなよ」
カズミに腕を掴まれて、生命の宿るそこに触れる。
「――生まれて来る子は、幸せにするって決めてるんだ。私」
「カズミなら、きっとできるよ」
「できれば、繭美のことも幸せにしたい」
「私?」
「そう」
カズミはそう言って、腰を押さえて立ち上がった。その仕草がいかにも妊婦っぽくて微笑ましい。
「なんか最近、腰が痛くて」
「横になんなよ。私、ちょっと散歩してくる」