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アルカナの行方  作者: ほされた葡萄
第3章 青の森
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02 ルームメイトinシェルル部屋


「ここ?」

「ここです」


 横に並んで立つシェルルに、私はもう一度「ここ……?」と呟いた。


 シェルルことルーにお部屋に招待されて廊下を進むうち煌びやかな装飾たちからは打って変わってだんだん湿気が多くなってきた。横幅が狭まり赤い絨毯が消え、見かけるドアの量が結構増えてきたところでようやく着いたのが。


 めちゃくちゃ古い木製のドアの前。


「……」


 いや、これ結構怖いよ。開けたら何か出てきそうだもん! エルナイトさんのいる図書室と同じ空気を感じる!


 城内で見かけるメイドの人数は数知れずだし、こんなでっかい城だとやっぱり人手もかかるんだろう。下働きの人は多いからか部屋の造りはちょっと乱雑らしい。


―――女の子をこんなところに住ませておいて騎士ってどんな身分やねん……!


 心の中でつっこみを入れて固まっていると、ルーがドアノブを握った。


「よろしいですか?」

「よろしいですかって……別になんか飛び出てきたりしないよね……?」


 恐る恐る聞いた私を見てルーは軽く首を傾げた。


「どうぞ」


―――も、問答無用――――っ!


 きい、と木の軋む音がしてドアが向こうがわに大きく開いた。


「……あれ?」


 冷や汗を流しつつ目にした光景に私は間抜けな声を上げる。


 ドアを開けた先には、おどろおどろしい室内なんて広がっていなかった。


 小さい小窓が上の方に一つ。光源はそれだけなのに全体的に明るい部屋にはベッドとタンスが二台ずつあって、空いたスペースには丸い机とイスが置いてある。


 な、生メイド部屋!


 そして更に私がびっくりしたのは、テーブルの横にちょこんと立つ女の子の姿。


「ハル様、どうぞ」

「え!? あ、はい、お邪魔します」


 後ろからルーに声をかけられ、私は慌てて部屋に入った。


 テーブル脇に佇む女の子もやっぱりルーや私と同世代くらいだ。こちらを爽やかな微笑みで見てくる。この子が例のルームメイトさんらしい。


「紹介します。ルームメイトのロズです」

「はじめましてハル様。ロズです。以後お見知りおきを」

「は、はじめまして……!」


 メイド二人目!


 赤い髪のショートボブな彼女―――ロズさんはメイド服の裾を軽く掴んで優雅にお辞儀。洗練されきったその動作に私の心は鷲掴みにされた。


―――ロズさんめっちゃかわいい!


 何故だかわからないけどシュヴァイツ城に仕える人たちの顔のレベルって異常だ。美男子美女あわせて何人いるやらって話である。

 当然ロズさんもシュヴァイツ城の暗黙ルールに沿ってかわいい顔立ちをしている。ちょっと幼さを残すものの……これは普通に女子高生で通るだろうん!


 ルーはうるさい子だって言ってたけど、なんだ、全然おとなしそうじゃないか!


「立ち話も何ですしお茶でもいかがですか?」


 ぽーっと見とれている間にロズさんは手でテーブルの方を示した。「あ、ああ、はい」と回りきらない呂律で応えると、


「……ロズ」


 背後にいたルーがぞっとするくらい低い声音でロズさんを呼ぶ。


「はい?」

「ハル様は、女性です」


 その言葉に、一瞬場の空気が硬直した。


「女性……?」


 何やら不安げな声と共に、ロズさんがこちらに訝しげな視線を向けてくる。じっと顔を見た後、少し視線を下げたかと思うと、


「そんなまさか」


―――私の胸そんなにないの!?


 ロズさんは辛辣な台詞と共に私の方へ近寄って来たかと思うと、小さい手のひらをポンと私の胸の上に置いた。


「ぎゃあああ―――――っ!?」


 なにしとんねん!


 素早くその両手を跳ね返すと、彼女は形の良い眉毛を思い切り下げた。


「お、女……? そんな、ハル様が女なんて……!」

「いや、その……」


 気まずくなった空気をなんとか取り戻そうと口を開いた瞬間。


「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁ――――――っっ!」


 ロズさんが、真横のベッドに勢いよくダイブした。


 私は一人、思わず茫然。


「ハル様が、ハル様が女性だっただなんて! そんな馬鹿な話っ! そんな馬鹿な話がこの世のどこに! 今度こそいい相手を見つけられたと思っておりましたのにぃ――――!」


 直後に始まった絶叫の早口に、私は「え」と口まで開いてしまう始末だ。


―――清楚な感じだと思っていたのに!


 枕にしがみついてごろごろとベッドの上を転がる様は残念ながらどう見ても清楚なお嬢様風メイドには見えっこない。


 つまりロズさんは、ルーが(男の)騎士団団員を連れてくるとでも思っていたんだろう。それがまさかの男顔女子だったからこの落ち込みよう。恋人候補にいでもなっていたんだろうか。


 なるほどこれは「うるさい」わけだ。


「あの……ロズさん?」


 恐る恐るといった体の私に、ロズさんの動きが止まる。


 こほんと軽く咳払いをした彼女は潔くベッドから下りてメイド服と髪の毛を直した。


「取り乱してしまいました、申し訳ありません。ですが私、ハル様が女性の方でもでも男性の方でもお知り合いでいたいのです」


 「男性の方」のところがメチャクチャ強く発音されたのって私の気のせい?


「ですからどうかこのロズと、今後もお付き合いお願いできませんでしょうか?」

「あ……はい、こちらこそ。私、友達ルーしかいないから……」


 自分の台詞に、私自身もん? と首を傾げた。


 つまり現時点でロズが二人目のお友達ってことになる。


―――友達少ない……!


 とにかく友達が二人ってことは、それだけその子たちとの時間が大事だってことだ。それはそれでいいことじゃないか。知り合いの一切いないこの異世界で、一か月も経っていないのに友達二人って多分すごい方だよ!


「では、そろそろお茶でも」


 ルーの言葉に三人でそそくさと席に着く。机上には三つのカップにお菓子も置いてあって、お昼前だけど女子三人でお茶会なんて結構ロマンがあるなぁと思った。


 ロズさんは一暴れしてすっきりしたのか、満足げな笑みを浮かべてお茶の準備をしている。


「ハル様の出身地はどこですの?」


 こぽこぽとティーポッドからお茶をカップに注いでいるロズさんがそう聞いてきたので私は一瞬どもってしまった。


「に、日本……」

「ニホン? 聞いたことの無い地名ですわね」

「北大陸あたりですか?」

「いや、島国……」


 そういえば、ディアとエルガー以外に私が異世界から来たってことを知っている人はほとんどいないはずだ。


 なんて説明すればいいんだろう。っていうか説明なんてしても信じてもらえるわけないよね多分。


 異世界から来たって、例えば高校の友達とかから言われたら。

 私だったら冗談だとしか思わない。


「ハル様、綺麗な瞳の色ですわね。その島国ではみんな瞳は黒色でしたの?」

「え? うん、そう。みんな黒だったよ」


 そういえば、この世界に黒い瞳の人間なんていないって聞いてたけど、それは本当なのかな。


 もし本当だったらみんなもっとオーバーリアクションだよね。


「ねえ」


 三人いても、お茶を注ぐ音だけになると静かなものだった。

 そこに私の声はびっくりするほどよく通った。


「私、変かな?」


 自分のことばっかり気にして、子供みたいで恥ずかしいけど。

 もしこの黒い目が周囲から浮き立って見えたら嫌だなとかそんなことを考えてしまった。



「……ハル様は変です……」

「確かに」



 うわ大体予想してたけど実際言われるときっついな!


 私は足の上でぎゅ、と拳を握った。


「城内のメイドからちやほやされて、一体何が楽しいと言うのですか」

「そうですわよ! メイドの中には女豹のような者までいるんですわよ! お気をつけにならないと手遅れになってしまいますわ!」


 二人の言葉に私の思考回路は停止。


―――違うそっちじゃない!


 性格的な「変わってる」じゃなくてもっと目に見えるものを!


「そうじゃなくて……私、目の色みんなと違うでしょ? 黒なんてウオーターフォードにはいないって……」

「目の色なんて決まってませんわよ?」


 当然と言わんばかりの物言いに、私は思わず肩を縮ませた。


「でも、黒い目の人間なんて……ここには」


 日本では黒い目が「普通」で。

 ウォーターフォードでは黒い目が「普通じゃない」。


 普通じゃない、がこんなに恐いとは思わなかった。


 多分これは、動物としての本能だ。周りと違うことがどれだけ自分に影響をもたらすか。周囲からどれだけ人が離れていくか。


「『いない』と『いちゃいけない』は違います」


 ルーの言葉に、私は顔を上げた。


「ハル様は、預言書の『黒い瞳の人間はいない』という言葉を気になさっているのでしょう?」

「うん、まあ……」

「預言書にいないと言われたって、黒い瞳のハル様はここにいるではないですか。それがいけないことだともおかしなことだとも私は思いません」


 ルーは言いつつカップを手に取り、そっと口をつけた。


―――……これは元気づけてくれてるんだよね。


「私、ハル様の瞳の色がとても好きですわよ」


 どうぞ、とロズさんがカップをこちらに出した。

 受け取ると、ほんのり薔薇のような香りがした。


―――なんか、恥ずかしいな。


 初対面の人にまで気を遣わせてしまって。

 自分の評価や周囲からの視線を気にしてばっかりで、自分のことで手一杯。

 それってまるで構ってほしい子供みたいだ。

 でも、今この時くらいは。


 この二人といる時くらいは、子供でもいいかな。


 お茶は、酸っぱい味だった。


 酸っぱいけど、どこか甘かった。



           ―――――――――――――――――――



「やはり厄介な存在だ」


 普段以上に低い声音に、もう一つの影が蠢いた。


「どうしますか」

「厄介な存在は早々に消してしまう方が楽だ。だが」


 深海の色をした瞳が、すっと細められる。


「どうせなら、まとめて消した方がいい」


 暗闇の中で怪しげに瞳が光った。




更新遅れてすいません。

実は六月の中盤まで、忙しくて更新できそうにないです。

それを乗り切ったらあとはたぶんスムーズになるので!

それまでしばらくお待ちいただければ……と。

ほんとダメダメな作者で申し訳ないです。

これからも、アルカナの行方をよろしくお願いします。

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