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アルカナの行方  作者: ほされた葡萄
第3章 青の森
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01 帰還


「準備はいいかの?」


 薄暗い図書室の一角で、老人の声が響いた。

 本棚の隙間、暖色の光を放つランプだけが周囲の景色を浮きたたせている。その中に佇むのは、老人一人と若者が二人。


 老人、エルナイト卿の正面に並んで立つのは騎士団団長のエルガー。そしてその隣には騎士団第二隊隊長のディア。


 一昨日見つかった預言書の一部は、今現在エルナイト卿の右手に握られている。木製の床には大きく描かれた魔方陣。今から何が行われるかはもう明確だった。


「はい」


 魔方陣の中央に立ったエルナイト卿の言葉に二人は静かに頷いた。


 同時に陣の紋様から青い光が発せられ、預言書が風にあおられたようにフワリと宙に浮く。やがて二枚の羊皮紙に綴られた文字が僅かに動いたかと思うと―――紙の上から文字だけが抜け出てきた。

 一列になったそれらは回転しながらエルナイト卿の手のひらの上にゆっくりと降り立つ。それは青い光に包まれた、幻想的な光景だった。


 全ての文字が手に集まると、彼は両手でそれをぐっと握りこむ。

 その瞬間、図書室を光が包み込んだ。ディアとエルガーもその眩しさに一瞬目を細める。


「ふむ、まあこんなところじゃのぉ」


 光が収まって両手を開いたエルナイト卿は満足そうにそう呟いた。


 皺くちゃの手には、預言書に書かれていた文字とは違う文字がぎっしり詰まっていた。


 翻訳魔法、と呼ばれる魔法はこの世の全ての文字を自分の知る文字に置き換えることができるという便利な魔法だ。主に考古学者などにかつて栄えた文明の文字を読みとる為に普及しているものだが城内でも使える者は多い。


 エルナイト卿もその一人である。


「預言書には、なんと?」


 宙に浮かんだ預言書に翻訳後の文字を詰め直したエルナイト卿は「そう急くでない」とのんびり答えて二枚の羊皮紙に視線を向けた。


「ふむ、これは―――」



           ―――――――――――――――――――



「ただいま、ルー!」

「おかえりなさいませ」


 ドアの前で、私はルーに思いっきり抱きついた。


 一昨日の夕方サンストーンで預言書を発見して昨日帰ってきたんだけれど、体はびっくりするほど疲れていて十時ごろには既に爆睡。今日は騎士団の第一隊は休暇で朝ごはんをすっ飛ばして眠ってしまった。


 そんなこんなでついさっき午前十一時を知らせる鐘の音で目覚めたわけだ。


 たかが三日くらい会わなかっただけなのに、ルーの姿を久々に見てなんだか涙まで溢れてきそう。女の子がいない生活ってやっぱ厳しい!


 ところでルーことシェルルはシュヴァイツ城で働くメイドの中のメイド、そんな彼女が何故私の部屋の前なんかにいるかと言うと。


「お部屋にご招待!?」

「はい。よろしければですが」


 彼女の言葉に私は朝っぱら(もう昼だけど)からテンションを急上昇さてしまった。


 なんでもルーが自分の部屋に私を招待してくれるんだそうだ。なんて言ったってウォーターフォードに来てまだ一週間程度だし、これほど嬉しい誘いもない。


「行く行く! 全然よろしいよ! むしろ行かせてください!」

「少しうるさいルームメイトがいるのですが……それでも構いませんか?」

「構いませんって構いませんって!」


 首をぶんぶん振りながらも「ルームメイト」という単語を脳内で分析し始める。

 お城に仕えるメイドだから、彼女はやっぱり泊まり込みらしい。というよりシュヴァイツ城にいるほとんどの人がここで生活をしているくらい。


 メイドは相部屋がいるらしいけど、騎士には一人一部屋が与えられている。昇進すると部屋も大きくなるとは聞くけど―――異世界人の私には正直無縁な話だ。なんと言ってもここの文字が読めない時点で。


 とにかく、このお城は昼夜問わず人が多い!


 城自体が大きいためか人口密度も結構低くて真夜中とかトイレに行くときとかはあんまり会わないけど、昼間はけっこう賑やかだ。


 騎士団の制服に着替えた私は、ルーと一緒に廊下を歩き始めた。


「ねえルー、この城って随分大きいよね……やっぱり怪談とか怖い噂ってあるの?」

「よくありますよ」


 ヒヤリとするルーの声音に、私は思わず背筋を総毛立たせた。


「例えば、夜中に一人で回廊を歩いているとどこからともなく足音が聞こえてきて」

「……」

「それがまるで甲冑を着た人が歩いているような、金属的な足音で」

「……」

「後ろを振り返ると遠くの方に銀色の何か大きなものが」

「……あの、ルー?」

「どんどんこちらに迫って来るそれは甲冑でありまして」

「ルー? ねえ聞いてる?」

「けれど真夜中に甲冑などという大仰なものを着込んで見回りをする騎士などいるはずもありませんし」

「ルー? ちょっと、もういいよ? なんか寒くなってきたから!」

「それから逃げようとして走っても」

「もういいもういい! もういいです! はいストップ!」


 途中から喜々として語っていたルーの口を手のひらで押さえ、私は冷や汗を流しつつそう言った。

 サンストーンの地下通路ではガイコツと戦った私だけれど、幽霊やおばけの類の克服ができたのかと言えばそんなことはなく。


―――むしろますますトラウマになっちゃったんですよー!


 昨日なんて夢に出てくるくらいに、それはもう恐ろしい体験だった。その直後に怪談話なんてされたら泣いちゃう。いや、振った私が悪いんだけどね!


「ハル様は、怖い話が苦手なのですか?」

「苦手っていうか……まあ普通に怖いじゃん」


 ルーの口から手を離すと、彼女の口角がニヤリ、と引き上がった。


―――なにその企んだような顔っ!?


 彼女が笑うところなんて初めて見た気がしたけれど最初の微笑みがこれって恐くないか!?


「あ、そうだルー! エルナイトさんって知ってる?」


 話題を変えようとして浮かんだのは何故か謎の老人エルナイトさんのことだった。

 以前魔法で記憶を覗かれてからは一度も会っていないあのおじいさん。ちゃんと元気にやってるのかな、と彼女の方を窺う。


「エルナイト卿ですか?」

「そうそう。なんかよくわからない人だなーと思って」

「あの方はご隠居される前まで何十年とこの城に仕え、戦時中も多くの命を救った大魔導士です。魔法についての知識が豊富で今でも尚この国に貢献しておられます」

「魔導士?」


 ゲームに出てきそうな単語に、私は腕を組み首を傾げた。


 魔導士ってことは魔法使い? そんなに偉い人だったんだ、あの人。

 人の記憶を無断で見るなんて悪趣味なことすると思ったけど、別にそれだけがあのおじいさんの全てってわけじゃないしな。


 二人で話しつつ中庭の上の回廊を歩いていた時、すれ違った人の違和感に私は思わず立ち止った。


「……?」


 振り返ると、こちらに背を向けて向こうに歩いて行く人の姿。背中ほどまである長い赤毛だけど、来ている外套は騎士団のものだ。


「ハル様、どうかされました?」

「……ううん、なんでもない……」


 ルーの声に私は慌てて視線を戻す。その後も話を続けたけど、受け答えも少し上の空気味になってしまった。


 あの人とすれ違った時―――なんとなく嫌な予感が背筋を走った気がして。


 不安を消そうと、私は剣の柄を握った。





最近更新が遅くてすいません。

書きたいことは山ほどあるのに、なかなかパソコンをあける暇がなくて(泣)

でも五日に一度は更新するので!(←結構ぎりぎりですけど)

頑張ります……!

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