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アルカナの行方  作者: ほされた葡萄
第2章 迷いの遺跡
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05 腹が減って戦ができん


 

 時計塔で、誤って階段から落ちてしまったエルガーと私。


 ガイコツ相手にウォーターフォードでの初戦を繰り広げなんとかその場をかいくぐったはいいものの、噂の地下通路を発見しなんやかんやでその中に進むことが決定。


 おどろおどろしい雰囲気の通路を歩くこと数十分、事態は膠着状態に。




 二手に分かれた道を見て「うーん」と訝しげな声を上げる私。


 この場合どっちかが地獄のような道で、どっちかが楽々預言書に辿りつけるような道……なんてこともあるかも?


 松明の火が風で煽られて左に傾いた。


「風が通っているのは左か」

「そうみたいだけど……」


 分かれ道に気付いて一分くらい。そろそろどちらかに進まなきゃ背後からガイコツが追って来るかもしれない。


「左に行く」

「左?」

「出口がある可能性が高い」


 まあ預言書があっても出れなかったら意味無いもんね。


 左に進むと、また真っすぐな道が続いている。


 いい加減飽き飽きしてきた景色に私は深く嘆息した。


「お腹へったなぁ……」


 同時にぎゅるるると腹が鳴り、「うっ」とエルガーの方を窺った。

 当たり前だけど彼は相変わらずの無表情。


「……腹が減っては戦はできん」

「なんか食え」

「雑草の根っことか?」

「うまいのか」

「雑草なんておいしいわけないでしょうが! いい加減突っ込んでよ!」


 仮にも華の女子高生が地下通路の天井からひょろひょろ生えてる雑草なんて食べるわけないでしょ!


 と言いつつ、低い天井を見上げて根強く地下まで伸びてきている根を見る。何十メートルも頑張ってるのねあんたたち。ちょっとは美味しいかしら?


 いやムリだ!


 小さい頃に花の蜜を吸う程度ならやったことあるけど雑草の、しかも根っこなんて食べれるわけないじゃん。


「はあ、お城のもっちりパンが恋しい……」


 視線を戻し自分で言った言葉にん?と首を傾げる。


「ああああぁぁぁ―――っ! 忘れてた!」

「何をだ」

「ルーからいっぱい持たせてもらってたんだ! もちもちパン!」


 エルガーに松明を押し付けウエストポーチを開けると、落ちた衝撃で少し潰れたもっちりパンが二つ。一日に四つの計算で三日分持たせてもらったから宿にもまだ残りが余ってるし今食べても平気だろう。


「ねえ食べていい!? 食べていいよね!?」

「好きにしろ」


 うんざりした様子のエルガーが低い声でそう返してくる。


「やった! いただきまーす!」


 一個一個薄いガーゼみたいな布で包まれたパンの一つを取り、口に入れた私は思わずほろりと涙を流しそうになった。


―――お、おいしい……!


 ミルク風味のパンは、ロールパンと形が似ている。とは言ってもロールパンより大きさが大きくて何より中がもっちもち。日本産のもち米でも使ってるんじゃないかってくらい! バターとかジャムとかサブの役割たちがいたらもっとおいしいんだろうけどこのままでも十分いける!


 と、前方を歩いていたエルガーが急に足を止めて振り返った。


「む?」


 パンを口に詰め込んだ私は首を傾げる。


 エルガーは私の後方―――今まで歩いてきた地下通路を凝視している。もぐもぐパンを噛みながらながら私もそちらを見るけれど、真っ暗で何も見えない。


―――どうかしたのかな。


 ようやくパンを飲み込んで口を開いた瞬間、エルガーが手で私の口を押さえた。


 どちらかと言うと叩くみたいな表現のほうが正しいかもしれない。ごっ! みたいな感じだし。


「うぐっ!?」

「静かに」


 どうでもいいけど息できん息!


 静かに、と言われ全身の動きを止めて耳を澄ますと何か変な音が聞こえる。

 かちゃかちゃと何かがぶつかり合うような音。それがたくさんこちらに近づいてきているような気がした。


「行くぞ」


 エルガーの言葉に、暗闇に背を向けて歩きだす。

 なんだか妙に背筋が冷えるのですが。


 まさかとは思うけど―――


「ガイコツ復活……?」

「二度も戦うのが嫌ならさっさと歩け」


 パンを食べたのは失敗だった!


 出来る限り早く歩くけど、背後から近づいてくる足音はどんどん近くなっている。こちらは火を持っているから明るさですぐ居場所がわかるんだろうけど、こちらから見れば暗闇から聞こえるガイコツの足音……ホラー過ぎっ!


 しまいにはざりざりざり! と剣を引きずるような音まで聞こえてきた。


「い、いやだぁぁぁ……」


 後ろ振り返れないっ!


 ついに小走りになった私の横で、エルガーが腰から剣を抜いた。松明を私に押しつけ


「合図をしたら伏せろ」


 いつも以上に低い声音でそう言ってくる。


―――いやいや合図って! 合図って何!? そこかなり重要だから!


「3、2」


 カウントダウンかい! と私は内心突っ込んだ。


「1」


 しかし突っ込んで間もなく、松明を持ったまま私は勢いよくその場にしゃがみこんだ。何をするのかわからないけど、鬼畜団長の言うことだからしゃがまなきゃ死んじゃう気がする!


 ごっ! とその時に膝に鼻をぶつけた。


 同時に風を斬る音がして、頭上を太い剣が通り過ぎ背後にいた二人分のガイコツに直撃!


「ぎゃああああっ!?」

「いいからそこを退いてろ!」


 あまりに近場で繰り出された一撃に、しゃがんでいた私はクラウチングスタート状態。いっきに膝を伸ばしてその場から離れた。


「近っ!」


 真後ろにガイコツがいたもんだからついびっくりしたけれど、エルガーは動じずに攻撃を繰り返して前の方にいるものから倒していく。


 騎士団団長だから当たり前かもしれないけど、全体の動きに無駄が一切無い。剣筋も滑るようになめらかだし、油断も隙も無い。一撃で骸骨の頭蓋を叩き割ってしまうようだから相当重い斬撃なんだろう。


「エルガー、大丈夫!?」

「お前はそっちで待機だ! 起き上がって来る奴を砕いておけっ!」


 頷いた私は松明をどうにかしようとして、地下通路を形作る頭ほどの大きさの石と石の間に斜めに木の枝を突き刺す。


「あ、あれ?」


 なかなか入らないな……。


 そうしている間にも倒れているガイコツたちは修復を始めつつあり、骨が一つの体を作ろうと一カ所に寄せ集まっていく。


―――や、やばいやばいっ!


 急いで別の隙間に突っ込んだりしてみるけど―――やっぱりダメだ。松明片手に戦うなんて芸当私には到底無理だし、どうしてもどこかに置いておかなきゃいけないのに!


 とうとう一体目のガイコツが立ち上がった。


「げっ……!」


 こっちを向いている虚空の穴が恐い。さっきまで近くにいたエルガーも暗闇の中までずんずん進んで行ってしまった。


 一人で骨相手に戦うなんて無理無理無理っ!


「こっちこないでぇぇぇぇ――――――っ!」


 涙目の中そう叫ぶと、ぐいっと松明が石の間に食い込んだ。


―――やった!


 そう思って手を離した瞬間、指先すれすれを鋭い何かが通過。


「ひっ」


 ガイコツが私の隙を見て頭をかち割ろうとしたらしい。剣を地面に食い込ませてこちらを見てくる。

 その距離わずか一メートル。


―――どっひゃあああああぁぁぁ!?


 そんな心の中の悲鳴は口からダダ漏れだった。


「どっひゃああああっ!?」


 剣を抜く間もなく勢いよく拳で骸骨の頭をぶん殴ってしまう。

 がしゃん、と背後に倒れ頭蓋骨も粉砕してしまった一体目を私は「うわあああああ!」と叫びながら夢中で蹴って向こうへやった。


 しかしその間にも周囲からじりじりと詰め寄って来る他のガイコツもいるわけで。


「いやだいやだいやだぁぁっ! ヨーコ! ヨーコヘルプミィィ!」


 懐かしき友人の名前を叫びつつ振り下ろされる剣やら鎌やらを避ける。迫って来るガイコツ相手によろよろと後退し剣に手をかけて抜こうとした。


 その時。


 ごすっ、という音がしていっきに右の足元が沈んだ。


「っ!?」


 とっさに足を見ると、踏んでいるところの石が他より一段沈みこんでいて―――嫌な予感パラメーターは急上昇。


「エッ……」


 エルガーッ!


 心の中でそう叫ぶと同時私の立っていた床がバカン、と下に向かって開いた(・・・)。


―――仕掛けとび……っ!


 頭の中でぐるぐるとある映像が回転する。誰かが床にある石を踏んで、それで作用した仕掛け扉が開いて石を踏んだ人間が下に落ちる―――戦国時代の城じゃあるまいし!


 しかし現実はどうも言っていられず、私は闇に急 降 下 !


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ―――――――――!」


 今日叫んでばっかりだ―――――!


 口を開けた扉が上の方で閉まるのが見え、そして真っすぐ落ちて間もなく背中に硬い何かがぶつかった。


「うえっ!」


 どうやらどこかに着地したようだが、着地地点は仕掛け床から二メートルほどだ。なにこれ全然仕掛けないじゃん―――。


 侮った私が馬鹿だった。


 ごろ、っと左に転がったことで今の状況をやっと掴める。


 ここ、斜面だ。


「いいいいいいいい――――――!?」


 仰向けから真横に転がる。しかも真っ暗で何も見えない聞こえない。松明は上に置いてきてしまったし私にはもっちりパンと剣しかないのに!


 転がるたびに剣が床とぶつかって高い音をたて、なんとか体をよじっているうちに最終的に滑り台を滑るような形になってしまった。小さい頃土手で段ボールを使って滑り降りる子いるけど……正直あんな斜面なんてもんじゃない。


―――やばい! 死亡フラグが! 死亡フラグが立ってるよ完全にこれは!


 しゃー! と滑っているうちにもバランスを取るように私は腕と足を肩幅に広げている。けれど今から何が起こるかわからない、どこまで滑っているのかわからないという恐怖に自然と歯が震えた。


 エルガー、ディア、ジェラルド、ルー、エルナイトさん、ヨーコ、父さん母さん兄貴誰でもいいからとにかく助けて!


 ぐいっ、と急な斜面が突然上に向かって角度を変えた。しかし勢いは止まらない。


 そしてついにその時はやってくる。


―――ぎょええええ!


 斜面は終わりを告げ、目の前で地面が途切れた。



 私の体が空中に軽々と投げ出された瞬間だった。




お気に入り件数が100件を超えました。


もっと精進しなければいけないところもたくさんありますが、こうしてたくさんの方々に気に入ってもらえていると思うとすごく励みになります。


よんでくださっている皆様、ありがとうございます!


これからも頑張りますので、何卒よろしくおねがいします!


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