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アルカナの行方  作者: ほされた葡萄
第1章 十七歳の誕生日 
10/48

09 ウォーターフォード



 ゴーン



 大きな鐘の音に私は瞼を開けた。


「学校っ!」


 今日は月曜日。窓からさんさんと降り注ぐ朝日は勘で言って午前七時。今からチャリに乗って全力で走って一時間目に間に合うかどうか。


 私はとにかく自室から出て朝ごはんの置いてあるダイニングに向かおうと、勢いよくベッドから飛び下りてドアへ向かった。なんか床が柔らかく感じるけど今はそんなこと言っていられない!


 しかし。


 ゴッ!


 突如額に強い衝撃。


「あだっ!」


 と間抜けな悲鳴も上がってしまう。


 痛む顔面を押さえてそのままズルズル座り込んだ私は、床を見て茫然。


―――なんでこんなフワフワ絨毯なの? うちってフローリングのはず……


 その矢先、私の真横(・・)のドアが開いたかと思うと金髪碧眼の青年が焦った様子で入ってきた―――誰?


「ハル、大丈夫!?」

「あ、えっと……ああそうだ、ディアだディア」


 呟いた声に金髪碧眼青年ことディアは「は?」と疑問顔。


「大丈夫だよディア、ちょっと間違えただけ。家と勘違いしちゃったんだ」

「そう? それならいいけど……」


 まだ心配げな表情を浮かべる彼は、私が初めて小学校に登校した時に見送ってくれた母の顔にそっくりだ。「この子ちゃんとやっていけるのかしら」みたいな。


「そうだ、エルガーはどこ? 話さなきゃいけないことがあるんだけど」


 いきなり立ち上がって問い詰めた私にびっくりしたらしいディア「と、隣」と返す。


 ディアの横を通って執務室の机でまた書き物をしているエルガーの姿を見つけた瞬間私は自分の声とは思えないほどの大声で「エルガー!」と叫んだ。


「……朝から騒ぐな」

「あのね、私これからのことについて色々考えたんだけど」


 絶叫にも顔を上げなかったエルガーがその言葉にはペンを走らせる手を止める。

 ゆっくりこちらを見ると続きを促すような視線を送ってきたので、もう一度私は口を開いた。


「私、この世界のことが全然わからない。ここには友達も家族もいないし、この大きい城から出たこともないよ。けどね」


 これ言うの結構勇気いるんだけどさ、



「私、ここで生きていくことにする」



 その言葉に、二人の息を呑む音が重なった。


 気がした。


「いきなりびっくりするかもしれないけどさ……勿論、日本に帰れるようになるまでの話。だから、それまでここでお世話になっちゃダメかな。ほら、お金もないし」


 最後の方は尻すぼみになってしまった。

 緊張しつつエルガーの表情を見るけど相変わらずの無表情仮面って感じ。仕方なく私は視線を足元に落とす。


「やっぱムリ? 私一応不審者と勘違いされてたみたいだから覚悟はして」

「勝手にすればいい」


 私の声に被さるようにして、エルガーの低い声が響いた。


「―――は?」

「同じことは二度も言わない」


 不機嫌そうな様子でイスから立ち上がった彼はそのまま部屋から出て行ったかと思うと勢いよくドアを閉める。バンッ! という荒々しい音にも私は茫然としたまま固まって反応できなかった。


「勝手にしろって、言った……」

「騎士団団長からお許しを貰えたんだから大丈夫だよ、ハル。よかったじゃないか、これでまた一緒に働けるね!」

「でもすっごい不機嫌そうだったし……」

「何言ってるのハル」


 ディアがそう言って首を傾げた。


「あれはエルガーの照れ隠しみたいなものだよ」


 その言葉に私はしばし沈黙。


 十秒ほど経ったその時、私の驚愕の絶叫が城内に響き渡った。



           ―――――――――――――――――――



 朝ごはんに行く前に、ディアにこの世界の話を聞くことにした。


 やっぱり最初は、この場所のことをよく知っておかなきゃいけないよね!


 なんでもこの世界は総称『ウォータフォード』と呼ばれていて四つの大陸といくつかの島国で構成されているらしい。ぴったり東西南北に位置する大陸。ディアはそれぞれの大陸の名前を順々に言ってくれたけど、全然覚えられなかった。


 そして今いるシュヴァイツ城は東大陸にある。歴史も古く領土も広くて賑わいがある大国であり、長年平和を保っているこの国『トゥールーズ』。それを治めるのが代々王族の『コーラル』の姓を持つ人々。どこかで聞いたことがあるような気がするけどひとまずそれは保留として、


「そもそも、ディアとエルガーって若いのにお偉いさんだよね。一体いくつなの? でもって何者なの?」

「僕は二十二歳。で、騎士団の二番隊の隊長」

「二十二っ!? うそ、もっと若いかと思ってた……」


 本人に言ったら多分怒られちゃうだろうけど、ディアって結構童顔に見える。色白だし肌綺麗だし。いや、そこはエルガーと同じなんだけれども―――ディアはどちらかというと天使みたいな感じだ。


「で、エルガーは二十一」

「二十一ぃ―――っ!?」


 私の絶叫はむしろ悲鳴に近かった。


「エルガーより若いの!? 私二十五はいってると思ってた!」

「エルガーはね、みんなに結構老けて見られるんだよ。何故かっていうと……」


 ディアはすっと人差し指を眉間に押し当てた。


「ここのシワ」

「あー、あの。魔王にしか見えないあのシワね……」

「あのシワさえなければエルガーも年相応なんだよ。ただ仕事柄毎日ここに溝入っちゃうのは仕方ないんだけどさ」

「確かに二十一で出世は早いかもねー」

「そうだね」


 なんで出世問題について話してるんだっけ。っていうか、ディアはその辺りの事情には詳しいらしくついにこの国の雇用問題までペラペラと喋り出している。むしろここまで喋っちゃうと恐いくらいに。


 意気揚々と語るディアは天使系。万年縦皺エルガーは魔王系ってところか。

 確かに二人とも顔立ちは端正だ。そりゃあもう、びっくりするくらい肌若いし。最初のうちは顔覚えが悪いせいか一回見ただけじゃ細かく分析も出来なかったし覚えられなかったけど、よくよく見れば結構イケメン揃い。


 ちなみにディアは金髪だけどエルガーは黒髪。最近の日本人より真っ黒なくらいの漆黒で、目の色はなんとびっくりゴールド。初めて見た時は「うわあ、金」としか思わなかったけど、今考えるとすごい色だなぁ。


 ぼーっとしながらそんなことを考えていると「ハル?」とディアが顔を覗き込んできた。


「あ、ごめん、ぼーっとしてた」

「そう? なんだか深刻そうな顔してたから」


 深刻と言えば。

 私あっさり「ここで生きていく」宣言しちゃったけど、本当にあれでいいんだろうか。


 二人とも案外心広いのかな。


「ハル、君は異世界から来たんだろう? どんなところだったの?」

「日本はね、とにもかくにも平和だったよ。友達も優しいし、学校も楽しいから」


 そう言いながら、脳裏には高校生活の思い出が蘇ってきた。別に死んだわけじゃないのに、ひどく懐かしいというか寂しい気分になる。


「勉強は面倒だったんだけどね」


 私はお世辞にも頭が良いとは言えなかった。体を動かす方が性に合っていたし、中学の頃からさぼり気味だったのもある。


「慰めてくれなくても大丈夫だよ、ディア」


 そう言うと、ディアの蒼い瞳が大きく見開かれた。


「私、しばらくはここにいるって決めた。決めたことは貫くのが日本人だから。そう散々教えられてきたから」



 ウォータフォードのことは大体わかったんだし。

 


 後はこのまま生きていければ。

 ここで暮らしていければ。





 この時はまだ、それだけで充分だった。





容姿の説明遅くなってすいませんでした。

エルガーはおじさんじゃないんです(笑)



たくさんの方々に読んでいただいているようで、毎日感謝でいっぱいです!

これからもアルカナの行方をよろしくお願いします。


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