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人質のいる小屋から仲間の所へ行く道の途中でふと立ち止まる。
あのお嬢様は何も食べていないし、もしかしたら腹を空かせているのではないか。後で何かをもっていってやろう。
はじめは貴族らしく平民を見下すような態度をとられ、彼も苛ついた。しかし、話していると高飛車な所はあるが世間知らずと言うだけで別に嫌いではない。むしろ大人しさの欠片もない娘、という印象の方が強い。女性、というより少女と言える年齢のせいかもしれないが。エリックが想像していたお嬢様像とはかけ離れていた。今では少し好ましく思える。
彼女のじゃじゃ馬な性格に今はここにいない妹を思い出して、少し苦しくなった。
自分が何とかしてやらなければ。その一心でここまできたのだから。
仲間の元へ戻るとなぜか居ないはずの人間の声が聞こえてきた。彼の仲間は二人の男だったはず。
なぜ女の声が?
つい立ち聞きしてしまっていた。
「あの娘は生かして帰さない」
あの娘とは、当然パトリシアの事だろう。
殺す?
そんな事は聞いていない。身代金を受け取ったら家に帰すのではないのか。自分の知らないところで恐ろしい会話がされていることにゾッとした。
意を決して壁の向こうをそっと伺う。
エリックは驚いた。
驚きで声を出さなかった自分を誉めてやりたいくらいだ。
声の主はあの大人しそうな侍女だった。