8
「なかなかうまくいったな」エールで乾杯した後、男が口を開く。
その場には男を含めて3人がいた。
「ああ、チョロいもんだな」
「ここまではね。明日が本番なんだから気を抜かないように」
「へいへい」
男の軽口に女が釘をさす。
明日は身代金を受けとる予定で、絶対にしくじるわけにはいかないのだ。
「それより、ちゃんと金は貰えるんだろうな?タダ働きで、はいおさらばってのは無しだぜ」
どうやら女がリーダー格のようだ。
「あたしがそんなに信用できない?前金は渡しているはずよ。それでも信じられないと?」
「いや、大金が手に入るんだ。なんか夢みたいで信じられなくてよ」
「報酬は全員で山分けよ。とにかく手筈通りに」
男二人は頷いた。
「しかしよぉ、あのお嬢様はやっぱりコレなのかい?」
男が親指で喉を切るような仕種をする。
「ええ。あの領主の娘は生かして帰さない」
女は冷徹にいい放った。
「そうだ、俺たちを苦しめた領主に罰を与えてやろうじゃないか」
メルーサ領は高すぎる税金により、民が貧困に喘いでいた。
領内各地で暴動が起き、食べるものがない為飢え死にをする者もいた。そんな情勢にした領主を民は恨んでいる。
「でもよぉ、あの娘は関係無いんじゃないか?悪いのは父親の方だろう。まだ若いのに殺すなんてあんまりだ」
なぜそこまでするのかと。
「それも依頼の内よ。殺せないなら報酬は払わないわ」
この誘拐は依頼されたものだ。しかもこのご時世に多額の報酬付きで。一も二もなく受けおったはいいが、理由を知らないまま娘を殺さなければならない。
今まで生きるために殺しは何度かやった。しかし今回は相手が貴族でまだ子供だけに躊躇った。
「そうか。まぁ娘の運がわるかったってことだな」