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男はうーん、と考えるしぐさをしたが首を振る。
「ダメだ。お前みたいな怖いもの知らずの女は逃げそうだし」
「じゃあ、足だけでもいいから。手が使えなければ何もできないわ」
男はまぁいいか、と言って足の縄を外した。
その瞬間、パトリシアの足が男を蹴る。
「痛っ」
足蹴りは大した力でないが、男はバランスを崩して椅子に頭をぶつけた。
「あーら、ごめんあそばせ!勝手に足が動いてしまったわ~私を馬鹿にしたから罰があたったのね」
「なんてお嬢様だ。前言撤回、縛りなおす」
男は打った頭をさすり、縄を持ってまた縛ろうとする。しかし今度は意識があるおかげかパトリシアは足をばたつかせて暴れだす。
「おとなしくしろっ」
「嫌ですわ、レディの足を縛ろうだなんて紳士として恥ずかしくないのかしら?」
「くっ、もういい。縛らないから、その替わり大人しくしろよ」
男はそっぽを向いた。どうやら彼女に乱暴を働く気はないらしい。
「あんた怖くないのか」
それは何に対しての問いだろう。誘拐されたことに対してか。だとしら
「最初は怖かったわ。目覚めたら知らない場所で縛られて動けないし。でも、なぜかしら。今はあまり怖くない」
それよりも、お父様がもし迎えに来てくれなかったら…。
見捨てられる方が怖い。
「誘拐したことを謝りはしない、ただあんたに乱暴を働く気はないんだ。だから、迎えが来るまでおとなしくしていてくれ、いいな?」
「そう、なの」
誘拐犯の言うことを真っ向からは信じられないが、男のことはほんの少し信じられる気がした。どうやら彼女に無理強いするつもりはないらしい。
だとしたら、なぜ誘拐などしたのだろうか?
この男に少し興味がわいた。
「あなたの名前は?」
「あんた変なお嬢様だな。誘拐犯の名前を聞くなんて…エリックだ」
エリックは少し戸惑いながら言った。
「私はパトリシアよ。変で悪かったわね」
再びエリックは蹴られることとなった。