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「うるさいな。静かにしろ」
一人の男が小屋に入ってくる。
見た感じ、ひょろ長いどこにでもいそうな平凡な男だ。髪も目も茶色で背は割と高く、歳はパトリシアよりも少し上のようだ。
まさかこの男が二人を誘拐したというのだろうか?
このように平凡で若い男が誘拐犯には見えない。
「あなたが私たちを誘拐したの?」
「そうだよ。だが残念ながら俺たち、だ。逃げられると思うなよ」
どうやらこの男以外にも複数犯人がいるようである。
例え隙を突いて逃げたとしても、仲間がいれば再度捕まる可能性が高い。
「平民の分際で私に命令しないでちょうだい。それにこんなことして、ただで済むと思わないことね!当然私のお父様が誰かは知っているわよね?」
パトリシアの父は領主であり、もちろんこの辺りの民で逆らえるものなどいない。
「まさか!知らない訳ないだろう?あんただから攫ったんだよ」
男の様子からして計画的な誘拐なのだろう。それ故脅しは利かなそうだ。
しかし、領主の令嬢に対してなんという不敬な口のきき方だろう。誘拐犯だろうがなんだろうが、パトリシアに対して命令口調で話すとは。今まで召使にかしずかれて生きてきた彼女はイライラとした。
そこで空気の読めないエミリーがおずおずと、
「あの~つまり、私たちはやっぱり誘拐されてしまったんですね。お嬢様、ここはおとなしく旦那さまの迎えを待った方がいいんじゃないですか?」
「おだまりなさい。こんな弱そうな男に捕まるなんて我慢が出来ないのよ。まぁ、お父様がそのうちに迎えに来てくださるでしょうから、仕方なくここで待つわ。それにしても、目的は何かしら?貧乏人はやっぱりお金が目当てなんでしょう!」
彼女は自身の身分が上だと分からせてやらなければ気が済まないらしく、平民が貴族に盾突くなどとはまったくおかしな話だというように笑った。
「誰のせいで…。まったく、何も知らないんだなあんた」
「なんですって?!」
男は憐れむような目でパトリシアを見て言った。
不意に男はパトリシアに近寄り顔を覗き込むと