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あぁ、お腹すいた…。
悲しいことに先ほどから腹の虫が鳴いている。
目が覚めてからどれくらい時間がたったのだろう。
すっかり夕日は暮れてしまい窓から差し込む明かりは無く、暖炉で燃える薪の火が唯一の明かりだ。
暗い。せめてランプを点けてくれないかしら。
手を縛られているので何をするというでもないのだが、暗いというだけで不安が増殖する。
パトリシアは無性にポーを抱きしめたくなった。
ポーは彼女が小さなころから飼っている猫だ。
白くてまん丸でふわふわなポー。
さみしい時はいつもポーを抱きしめてその暖かな存在に癒されてきた。
早く家に帰りたい。
帰ったら暖かい紅茶を飲み、思う存分ポーを抱きしめよう。
ポーは苦しいと嫌がるだろうが。
大人しくできないところはどうやら飼い主に似たようだった。
外から足音が聞こえてきた。その足音はドアの前で止まり、
「入るぞ」
「ノックしてって言ってるじゃない」
「はいはい」
どこかの兄妹の会話かと思うようなやり取りをする。
エリックが小屋に入ってパトリシアの方を見ると、暗さに目が慣れないのか、
「見えないな」
「その通りよ。暗いし寒いし、その上お腹減ったわ」
パトリシアは放って置かれたことに腹を立てている。普段なら何かと世話をやく侍女が今は居ないのだから当然のことかもしれない。
「悪かった。今明かりを点けるよ」
暖炉の火をランプに移すとぼんやりと少し暗めの明かりが小屋を照らす。
明るくなると互いの顔がはっきりと見える。
するとエリックは懐からナイフを取り出し、パトリシアに近づき---
彼女の手を縛っている縄を解いた。
パトリシアはいきなり縄を解かれ訳が分からない、という顔。
「あんたを逃がすわけじゃないから。少し予定が変わったんだ」
手をさすりつつ、訝しげにエリックの顔をみる。
「これから金と人質を交換する。もう少しの辛抱だから大人しくしてるんだ」