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なぜあの侍女があそこにいる?
そして彼女、パトリシアを生かして返さないとはどういうことだろう。
自分の知らない所で話が進んでいて、それに思考が付いていけない。
だが一つだけ確かのなのはここに居てはまずいということ。
エリックはそおっと壁から離れると、音を立てないようにその場を退いた。
建物を出るとふぅ、と一息ついた。
危なかった。
あのタイミングで出て行ったら間違いなく口を封じられていただろう。
なぜならエリックはそこまで聞かされておらず、つまりその先彼が知ってしまうとまずい話ということだ。
侍女の縄をほどいて小屋から連れていった時は、屋敷と連絡を取るためだとかってに思い込んでいた。
しかし彼女が実行犯だったとは…。
それにあの侍女…かなり胡散臭い。
あの場に居た侍女は先ほどとは別人に見えた。
そしてあの顔は冷徹な犯罪者の顔だった。
出で立ち変わらず、眼鏡をかけ髪も三編みだったというのにだ。
それに人質、パトリシアを殺すなんて…
エリックにとって誘拐するというだけでもその精神的負担はかなり大きいのだ。
なのにその上人殺しをするなど到底無理な話だろう。
俺にはできない、人殺しなんて。
ならば…。
エリックは一つ決意すると、早速行動を起こした。