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序
よく晴れた青空の下。
ある大きなお屋敷の庭には沢山の白い花が風に揺れ、その間を黄色い蝶がひらひらと飛んでいる。
初夏の庭木は若葉が茂り、涼しそうな影を地面に落す下で、母親と娘らしき少女が花を摘んでいた。
「ねぇ、おかあさま!お花とってもきれいね」
「ええ、そうね。これはデイジーというのよ」
「でいじー」
「そう、デイジーよ。とてもいい香りね」
少女は顔に花をくっつけて匂いを嗅ぐ。
「ほんとうだぁ~おかあさまみたい」
少女は母が大好きだった。
きらきらして優しく、まるでおひさまのような本当に自慢の母だった。
ふふっ、と笑うと母親はドレスの裾を揺らし立ち上がる。
「さあ、お部屋に飾りましょうか」
「うん!」
2人は手をつないで屋敷の中へ入っていく。
麗らかな午後の陽光が庭を照らしていた。
ずっとこの優しい時間が続いてほしかったのに。
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目が覚めると知らない場所にいた。
暗く低い天井、見たこともない粗末な椅子とテーブル。木造の小屋の小さな窓からは、今にも沈もうとしている夕日が針葉樹を赤く照らしていた。
「ここは・・・?何よ、これ・・・」
彼女は堅いベッドに寝かされていた。
起き上ろうとしたが手首と足は縛られており身動きが取れず、彼女パトリシア・クレイトンはパニックになった。
どうしてこのようなことになったのか、さっぱり分からない。
少し離れたところに彼女の侍女が眠っていた。
彼女は侍女のエミリー、パトリシアの世話係である。
エミリーも手足を縛られ動けないのだろうか。
「ちょっと、エミリー!起きて!」
「ん、ん~…なんです?お嬢様~」
「なんです?じゃないわよ!これはどういうことなのか説明なさい!」
「え、これ?…あ、動けない。あら~どうしてかしら~?」
「どうしてかしら?って…まったくのんきなんだから!」