想起
なんちゃってSF
私の視界にあるのは青、黄色、赤のグラデーションを作ったパステルカラーのように淡い夕焼け。
そしてその中央にあるのは弧状に展開する虹だ。そのアーチの中には太陽が捕らえられている。
あの虹が実は弧状ではなく円形で、下半分のアーチを地平線の下に隠していることをどれくらいの人が知っているだろうか。そうやって目に見えている事柄と、自分の目には見えない事実。その対比が私をより一層
景色に夢中させる。夕日が沈みかけている。「この景色をまたいつか見れたら。」私の一日は終わった「次見れるのはいつだろうか。」
結局「次」はその日を最後に半世紀が過ぎてしまった。
私は自然が作る虹とは無縁の宇宙に住むことになった。
「人が宇宙に住むなんて考えは、SFにとどまった話に決まっている。」
地球に私の家があった頃の私の考えは、きれいに打ち砕かれた。現に私は宇宙に家があって
友人もいる。それだけではない。目覚ましい医療技術の発展により私達人類の平均寿命は百七十歳を超え、
もうすぐ百八十歳を超える。人生百年時代と豪語していた時もあったと思うと、少し寂しい気もするが。
私は今六十歳である、と言っても体に何一つガタは来ておらず、運動能力も健在だ。
私はジョン・渉。宇宙居住施設「北斗」の住人だ。
宇宙居住施設「北斗」
北斗七星が見えることからその名がついた。SFそのままのような見た目、仕組みで、遠心力で重力を再現し人を生かす。そこには純粋な自然物など無かった。あるものすべてが人の作ったものだった。自然が作る雨も、雪も、風も、雷も、そして虹も、そこには、、、。
私は目を覚ます。目覚まし時計よりも早く起きることが日課だった。その早く起きた分、朝と呼ばれる時間に外を歩く。居住施設内はある程度気温、湿度を地球に近づけており過ごしやすい。人工の快晴、人工の雨。天気予報が外れることはない。ただ、地球にいた頃のたくさんの不便さも、「あれはあれでいいな。」
なんて思うようになった。今日も普遍的で、ささやかな良い一日を過ごせる。そう思っていたのに。
何かが崩れるとき、それは身構えていないときなのだ。
その日私は歩いたことがない散歩のルートを歩いた。その道の行き着く先は貯水所、私達宇宙の住民にとっての生命線だった。閉鎖的な作りにはなっておらず、いくつかの正方形のため池が並んでいるような構造をしていた。「随分とオープンな作りをしているんだな。」呟きそうになる。
自分の顔が映る水面を眺めていた。その時。
上空から一つの影が水に飛び込んだ。水しぶきが上がる。そこで僕は再開した。虹と。確かにあの日のように自然が作り出したものでは無かったが、その触れることのできない宝石のようにきれいな色彩は少年だった私の思い出を鮮やかに、鮮明に思い出させた。水しぶきに溺れたような感覚だった。
また、あの景色が見たい。地球に帰って。青。黄色。赤。パステルカラー。太陽を捕らえたカラフルなアーチ。地平線に隠した下半分。自然が映す美。大切だったはずなのにどうして、
忘れていたのだろうか。
「Then, let's go back to Earth together.(じゃあ、一緒に地球に帰ろうよ。)」
その時。水に飛び込んだ影が水面から頭を出して私に声をかけた。
読んでくれてありがとう。




