断罪されたくないのでヒロインの邪魔はしません!あれ?
お花畑ヒロインならぬお花畑悪役令嬢。
実際、なーんかこういう思考が透けて見える悪役令嬢多いよね。
「私ってば悪役令嬢のレイチェル・アイスフィードになってるーー!?」
バッタン。
流行り病で三日間の高熱にうなされ、ようよう回復して鏡の前に座った幼い私はそのまま気絶してベッドに逆戻りした。
私は前世ごく普通の新人サラリーマンだった。女だからOLといったほうが正しいかもしれないが。
慣れない仕事の息抜きに通勤時間に恋愛系無料漫画を読むのが趣味の地味な女だった。
レイチェル・アイスフィードとは、そのよく読んでいた恋愛漫画の悪役だった。
性悪で厭味ったらしく、良いのは顔と家柄と財力だけみたいな女。
社交界にデビューしたての、爵位と歴史はそこそこだが貧乏貴族のヒロインの令嬢に意地悪をして結局は社交界から居場所が無くなりその高いプライドと家柄に見合わないような相手の後妻に収まるラスボスとも言うべき悪役令嬢。
フェードアウトするように退場していったし、あの恋愛漫画は過剰なざまぁ展開を売りにした類ではなかったけど、レイチェルってば多分長生きできなかったんではないか? と嫌な予感が脳裏をよぎる。
だって、レイチェルが嫁がされた相手って妻が三十歳を超えられないとかってモブがヒソヒソ言ってたし。
ヤバいヤバいヤバい。
レイチェルの嫁ぎ先は、冷酷溺愛系ヒーローのショーンとレイチェルの生家のアイスフィードが裏取引、というかヒロインのアンリエッタへのいびりで居場所が無くなったレイチェルは貴族令嬢としての価値が薄くなり、それを高値で売りつけたいアイスフィード家とレイチェルを忌み嫌うショーンの利害が一致して、美貌の妻を求めて若くなくなった女はポイ。の鬼畜伯爵家にドナドナされていくのだ。
ルッキズムというか、エイジズムが過ぎる話ではあるが、中世や近世に近い世界観のここでは現代日本のような美魔女系になるには化粧品も美容品も足りなく、また女性の立場も弱いだろう。
若さを失った妻を……、が離縁して修道院ならまだマシで、もしかしたら死…………。
ぶるり、とレイチェルは身体を震わせる。
まあ、まあ大丈夫だろう。
なにせまだ十歳。家族との関係を良好に保ち、社交界でヒロインのアンリエッタに意地悪をしなければいいのだ。
そうすればそこそこいい感じのところにお嫁に行けるだろう。
無料投稿サイトの悪役令嬢転生小説のようにうまく立ち回ればいい。
なんと言っても、レイチェルは顔と家柄だけは良いのだから。
それから八年の月日が経った。
ちょっと過剰なまでに父母に可愛こぶってみたり、礼儀作法や勉強を頑張ってみたりした成果あってか家族仲は良好に思える。
まあ、原作でもアイスフィード家の内情は全然語られてなかったから原作改変できているかは微妙なところではあるのだが。
作品ヒーローである白百合の貴公子たる冷酷溺愛系ヒーローのショーンとは関わり合いがない。
原作漫画でも別に幼馴染とか婚約者候補とかでもなく、ただ社交界の人気者のショーンに、自信家で同じく社交界で影響力を持つレイチェルが一方的に引っ付いてモーションをかけているだけだったからこちらから特にアピール、というか何もしなければ事務的な社交のやり取りをするくらいでほぼ会話のないのも頷ける。
漫画の作中ではレイチェルは確か十八歳だった。
ヒロインのアンリエッタは二歳年下の十六歳で、『高校生みたいな年齢だなー』と思ったからよく覚えている。
これから一年で、レイチェルの進退が決まるのだ。
気合を入れ直して、レイチェルは貴族らしい微笑みを浮かべた。
結局、レイチェルはショーンにも実家のアイスフィード家にも断罪されないままアンリエッタとショーンは結婚した。
美貌の貴公子、白百合の君と社交界の嬌声を浴びていたショーンの結婚は一時社交界を騒がせたが、相手のアンリエッタの家は建国以来の伯爵家というなかなかの家柄で、アンリエッタ自身際立った愛らしい美貌と機知に富んだ冴え渡る頭脳、さらには謙虚に男を立て時には叱咤する強さも見せ、社交界の先輩方の年上女性にも礼儀を弁えた上で物怖じせずに意見をいう様を見せ……という非の打ち所がないというか、悪口を言えば言うほど僻みになるような女性だったので結局は妬み嫉みありつつもお似合いのお二人よね、というところで落ち着いた。
ところで、私の進退の話である。
私ことレイチェルは、十五歳年上の子爵家当主の男性に嫁ぐことになった。
子爵とはいえ、侯爵家の次男の爵位であり、しかしながらそれは次代、つまりレイチェルの子供には継承されずに侯爵家に返還される爵位だった。
レイチェルの子供は騎士爵をもらうか、どこぞに嫁ぐかしないと貴族では居られない。
元貴族令息として、働くならば平民よりも門戸は広く開かれているだろうけど、アイスフィード家の爵位と歴史を考えればそこそこに残念な嫁ぎ先と言わざるを得ない結果だった。
なんでこんな結果になったのだろう。とレイチェルは思う。
別にショーンと結婚したいとまでは全然思ってなかったけれど、なんかこう、悪役令嬢に転生して意地悪しないで上手く立ち回る女性っていい感じの貴公子に見初められてハッピーな感じになるのではなかろうか。
そんな感じの意識で婚活に本腰を入れていなかったからぱっとしない結婚相手しか残らなかったんだとは、流石のレイチェルでも分かっている。ただの現実逃避だ。
幸いにも、レイチェルの相手は爵位的問題はイマイチな相手だが人格的には別段悪い噂は聞かない。
これで外面がいいだけの鬼畜だったらレイチェルは終了なのだが、まあこの世界、かなりモラハラが横行していて現代日本的に素敵な男性ってほとんどいないので誤差だろう誤差。
夢見る乙女の時期は随分と遅くなったけど終わったのだと、レイチェルは現実に回帰するのだった。
人物紹介
レイチェル
多分侯爵家とかの令嬢。
顔もいいし、いわゆる学校の勉強もできるけど頭がゆるふわっとしてるタイプ
悪い子ではない
夢見がちゆるふわ系
婚家では地頭の良さを活かしてそれなりに立ち回れるはず
アンリエッタ
少女漫画や少年漫画でよくいる系の善性ヒロイン
スペック高すぎメンタル強すぎ徳高すぎで誰も勝てないタイプ
悪役令嬢のレイチェルの妨害や恋のスパイスは無かったが、最強ヒロインなのでものともしなかった。
転生者ではない。
ショーン
なろうよくいる系氷の貴公子ヒーロー
転生者ではない。
レイチェルのことは名前と顔とが一致するくらいの認識




