落ち度
グラウンドは氷点下一〇度以下になっていたであろうか。和田は銃の訓練を受けてきた訳ではない。ズブの素人であることも重々承知している。しかしだからこそ大胆でいられる。怖いものは何もない。相手は実弾を持っていないのだ。そう思うと和田は笑いが止まらなくなり、田所と二瓶の前に現れたのだ。
「おい、相手は拳銃を所持しているぞ。どうする。取敢えず駿河二曹に報告だ。」
二瓶はビビっていた。ハンディライトで侵入者を照らすと笑っているようにも見える。近くに一人、民間人が倒れている。仲間だろうか?そう思ったが、まるで状況が分からない。二瓶はとりあえず駿河二等陸曹に現情を報告し、取敢えず救急車の要請をした。
「田所士長、こいつ狂ってますよ。逃げましょう。撃たれますよ」そう言ったとたん、拳銃の音が響き渡った。田所が前方でうずくまっている。
「だから言ったじゃないですか。もう僕は逃げますよ」そう言って二瓶は和田に背中を向けて走り出した。必死に走っているつもりだったが、和田は余裕で二瓶の後ろをついてきた。後方で声がする。
「おい、お前も新人か?僕もなんだよ。僕とタックを組まないか?いい提案だとは思わない?」
何だ、こいつ。狂っているとしか言いようがないよ。二瓶は今にも泣きだしそうだった。しかしここへ無線が入る。塚原三等陸曹の声だ。
「今グランドに着いた。現在置を知らせよ」
「グランドの東入口です。塚原三曹のジープが目視できます」
「了解。今、二瓶が確認できた。援護をするので、身を低くしていろ」
ジープで駆け付けた塚原が侵入者の和田を捉えた。ジープのライトをハイにして和田を照らす。和田は何事があったのか分からず、体を覆って身を低くした。塚原はその和田を六二式機関銃で乱射する。和田は踊るように弾を浴びながらやがて地面に崩れ落ちた。二瓶は怯える様に和田を見ると、すでに和田は息を引きとっているようだった。二瓶はため息をついてその場にしゃがみこんだ。「もう滅茶苦茶だ」まだ二二時を回って一〇分ほどだろうか。これで二瓶二等陸士は一命をとりとめた。救急車のサイレンの音が近づいてきて、二瓶二等陸士は生きている実感をようやく受け止めることが出来た。




