侵入
雪の舞い散る夜。札幌県T駐屯地に侵入を試みようとする二つの影があった。東門には陸士一人が警衛の任務に就いていた。その任務に就いていた、佐藤陸士長は経験豊富な陸士で、僅かな街灯の明かりの下で外出帰りの自衛官の身分証明書を確認していた。入営の許可の有無を出すのも佐藤陸士長の重大な任務の一つである。その任務をあと一〇分で、他の陸士と交代の運びとなっていた。
警衛は正門、東門、西門と、人員と車両の通行を許可する任務に就く。特に正門はいかなる誤算があってはならない。人員の駐屯地内への通過許可、車両の入営許可など上げたら枚挙にいとまがない。それに伴い、正門に立つ自衛官はよくプレスのかかった戦闘服を着こなし、どのような事柄にも平然と対処しなければならない。その点、東門は比較的楽な任務である。東門から駐屯地に出入りする者は官舎から隊へ入営する既婚者や、隊から外出する者の外出許可書のチェックが主な任務となり、正門は二等陸士などの、階級が低いものが任務にあたり、東門は陸士でも、陸士長などの割合陸士でも、階級の上の者が任務にあたる。その点西門は演習場へ行く車両のチェックが主な任務で、陸士よりは位が高い三等陸曹が任務に就く。しかし西門には弾薬庫があり、多少の緊張感はあるであろう。しかし、正門の任務に比べたら多少は気楽に任務にあたることが出来るのである。警衛は二四時間体制で任務に就くので睡眠は仮眠程度に取ることしか出来ず、警衛の任務終了後は非番となっている。
東門は暗く、街灯も少ない。佐藤陸士長は東門に入って来る.二人の陸士の身分証明書を確認していた。一人は自衛官にしては痩せすぎていて、髪も長くて自衛官らしくない。もう一人は中肉中背で、体はよく鍛えているように感じた。髪の長い方の陸士が正月休暇の帰りですと言って東門を何事もなかったように通過。残る一人も佐藤陸士長が入営の許可を出し、二人はそそくさと隊舎に向かって歩き出した。二人は言葉も交わさず、食堂と風呂場の間のちょっとしたスペースで戦闘服に着替え拳銃をリュックから取り出し、弾薬庫を目指して前進を始めた。




