水底に沈む恋
これからも、ずっと、一緒。
水面に浮かぶ私は、過去を思い出しながら空に浮かぶ月を眺める。
初めてあの人に会ったのも、こんな綺麗な三日月の日だった。
「女の子がそんな薄着で、冷えると体に良くないよ?」
街から少し離れた森の中の小さな湖、一人湖の水面を眺める私に、そう言いながら自分の上着をかけてくれた貴方。
「危ないから」
と、私の家まで送ってくれたの。
それから、街中で再開すると何度かデートを重ねて恋人になった。
「愛してる」
何度もそう言ってくれたのに、その言葉は嘘だったね。
ある日、用事の為に隣街へ出掛けた私は、そこで彼を見つけた。
その横には知らない女性。
楽しそうに腕を組んで歩いている。
少しだけ後を追うと、人通りの無い道で二人は熱い口付けを交わしていた。
それを見た私は、彼に声をかける事なくソっとその場を離れた。
「最近、全然会いに来てくれないんだね?」
あの湖でまた一人水面を眺めていた私に近寄りそう言った、貴方の手を取る。
そうして、誘うように湖へ歩を進めた。
戸惑いながらも着いてくる貴方の足が湖の水に触れた瞬間に、私は彼を強く引き寄せる。
そのまま水の底へと、彼の腕を掴んだまま奥へ奥へと泳いでいった。
急に水中へと引きずり込まれた彼は声を発する事も出来ず手足をバタつかせ逃れようとするが、私はその腕を離す事なく進む。
彼の腕に、私の鋭い爪が食い込んでいく。
彼は段々と動きが鈍くなり、口をパクパクと動かし泡を吐き出しながら物言いたげな瞳で私を見つめる。
やがて彼の動きが完全に止まると、私は大きく口を開けて口の中の尖った牙で彼の喉元に噛み付いた……。
水面にユラユラと揺蕩いながら彼との想い出に浸るのに満足すると、私は湖からゆっくりとあがり穏やかになった水面を眺める。
その時、物陰からこちらを覗く人影に気付きそちらに目を向ける。
物陰から姿を現したその人は、優しそうな青年だった。
「……あ、あの、突然すみません。で、でも、この湖は人を喰らう水魔が出ると噂になっているので心配で……。」
そう言いながら自分の上着を差し出してくれた青年に、少しだけ困ったように微笑むとその上着を受け取る。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ、亡くなった恋人との想い出を思い出していただけ。」
受け取った上着を羽織ると、青年はスッと手を差し出した。
「もう暗いですし、い、家まで送ります。」
その言葉に、私の胸は少しだけトクンと音を立てる。
そして彼のその手に、私はソっと自分の手を重ねた。
その手の温かさに懐かしいモノが込み上げて、私は思わず瞳を閉じた。
そうして、過ちは繰り返される。