人生は全て裏切りと絶望で出来ている
春の終わり、風がまだ冷たいある日。つなは、三度目の告白をした。
「Eくん、今度こそ、私と付き合ってください」
声は震えていたが、目は真っ直ぐだった。Eくんは少し驚いたように笑って、そして、初めて頷いた。
「……うん。今度は俺からも、ちゃんと好きになるよ」
それが、つなとEくんの始まりだった。
最初の数週間は夢のようだった。ふたりで寄り道して食べたコンビニアイス、眠い朝に交わした「おはよう」のLINE、手を繋いだ帰り道。どれも、つなが三度も告白した理由を確かにしてくれた。
けれど、夏が近づくにつれて、Eくんの返信が遅くなった。会うたびに、目を合わせる時間が短くなった。
「なんか最近、忙しい?」つなが聞くと、Eくんは曖昧に笑って「部活がね」とだけ答えた。
ある日、つなの友人からメッセージが届いた。
「これ、Eくんじゃない……?」
添付された写真には、知らない女の子と手を繋ぐEくんの姿が写っていた。夜の街、笑顔で。
つなはその写真を何度も見て、泣いた。問いただす勇気も、怒る余力もなくなっていた。
結局、Eくんはそれを否定しなかった。
「最初から、ちゃんと好きになれる自信なんて、なかったんだ」
その言葉が、つなの中に突き刺さった。三度目の告白の返事が、こんなに空っぽだったなんて。
それから、つなは人との距離をうまく取れなくなった。LINEの通知音が怖くなった。笑顔の裏にある本音を、疑ってしまうようになった。
友達が「大丈夫?」と聞くと、つなは笑って「平気だよ」と答えた。嘘じゃなかった。ただ、もう本当の「大丈夫」がどんなものか、わからなくなっただけ。
季節はまた春になった。
新しい服を着て外に出たつなは、道端に咲いた小さな菜の花を見つけた。それを見て、不意に涙がこぼれた。
あんなに傷ついたのに、まだ、何かをきれいだと思える自分がいた。
そして、それはたぶん、小さな一歩だった。