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サラリーマンと少女 〜4:44に現れる願いの代償〜

作者: 藍瀬 七

社会にすり減る日々。

積もる苛立ちと、どうしようもない孤独。


そんな夜、あの時間にだけ現れる少女がいるという。

…これは、誰かの願いがもたらした小さな地獄の物語。

 昔からの言い伝えがあった。

他の死を望むのならば、己の命を差し出せ――

そしてその儀式は、変わり果てた夕焼けの4:44分の時刻に現れる少女により行われるという……。


 今日も定時に帰れないサラリーマン・奥村定男おくむらさだおは、もはや帰る時間にタイムカードを切ることは日常茶飯事であった。入社当初は、タイムカードを切っても帰宅できない悲しさに精神を削られていた。

 そんなある日、会社の上司に、一杯奢るからといって招待してもらえたのが、居酒屋・招き猫である。招き猫は、夕方16時から開店し、深夜に渡り営業している出店式居酒屋なのだ。定男は、例え一人飲みでも、定期的に招き猫に足へ運ぶようになった。招き猫のオヤジは、いつも定男の愚痴を聞いては慰めの言葉を言い、お酒を提供していた。


定男「くそっ、ウチの会社は俺をなんだと思っているんだ……ひっく」


酔いが回っている定男に対して、


オヤジ「まぁまぁ、愚痴なら何でも聞きますぜぃ? 」


定男「飲まなきゃやってられないってんだよ……。オヤジ、もう1杯。……俺はよぉ、身を粉にして働いて、妻を養ってるっていうのに……社長は俺たち社員のことを見下してきやがるんだ。」


定男は涙を流しながらビールを飲んだ。


 そんな日々も続かず、定男は妻に離婚を突き付けられた。定男の精神はぎりぎりのところで保たれていたところに、だ。仕事もいつも厳しく、嫁からは愛想もつかれた定男は心が崩壊してしまった。


定男「(なんで、俺は離婚届けを突き付けられているんだ?あんなに、必死になって仕事を頑張った結果がこれか?……そんな、あまりにも残酷すぎる……)」


 翌日、会社に出向いた定男は、社内の噂話を耳にした。トイレに行こうと思い、喫煙所を通り過ぎたときのことだった。上司の話声が聞こえてきた。


上司「社長も奥村に対して、命令が厳しすぎるんだよなぁ。」


同僚「やっぱ、はたから見てもそう見えるっすね?俺も社長に目を付けられないようにしないと。怖い怖い」


上司「ウチの社長はきまぐれなところもあるからな。臨機応変に対処した方がいいかもしれないな。基本は忘れずにな。」


同僚「そういえば、例の噂知ってますか?夕方になると現れる、願いを叶えてくれる少女の噂話。なんでも、願った相手を代わりに抹殺してくれるって話っすよ」


上司「そんな都合のいいこと、あるわけないだろう。」


 ハハハと二人の話が聞こえてきたのだった。気付くと定男は、トイレで少女のことを調べていた。「そんなバカな…」と思いつつも、もしも本当だったら――という気持ちが、いつの間にか手を動かしていた。

 その少女とは夕方に現れ、ある品を用意して、時間になったら自分の代わりに他の誰かを殺すという役割を果たしてくれるらしい。場所は学校のグラウンドだという。


 その日は珍しく、緑色の夕焼けを見た時だった。例の昔話の噂を聞いた定男は、店で買ってきた品を準備した。ある品というのは、刃物のことだった。4:44の時刻に現れる少女が人を殺めるときに使うらしい。そして、誰もいない学校のグラウンドに足を踏み入れ、疲れ切った表情で刃物を目の前に置いた。


 計画通りに定男は、4:44の少女に願う。

『頼む、俺をこんな状況にさせた社長を殺してくれ』と……。


 学校のグラウンド内で座り込んでいた定男は、大量のメールの着信音と共に、自分の願った愚かさに気付いた。〇〇社、正体不明の殺人鬼現る――と、トップニュースに大きく取り上げられていた。俺は……やってはいけないことに、足を踏み入れてしまったんだ……。後悔しても後の祭だった。


 その場で跪いている定男に、赤い色の服を着た少女が現れた。少女はこう告げる。


少女「次は、あなたの番よ。」


と――。


定男「悪かった!俺が全てを償うから許してくれ……」


涙を流しながら少女に泣き付く。


少女「他人の死を望みながら自分だけ生きようなんて甘いのよ」

定男「頼む、助けてくれ」


定男は少女に懇願した。

けれど――その願いが叶うことは、決してなかった。

時計は、午後4時45分を指していた。

「もし、自分だったら――」

そう思ってくれた方がいたなら、書いてよかったと思えます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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