ナンパ(2023)
日付の出ないメモ帳なので正確な日時は分かりませぬ(´;ω;`)
「おねえさんおねえさん、今ひま?」
「お友達と待ち合わせですか?」
「どこいくんすか?」
「お姉さん可愛いっすね!」
「おねかわスネ夫!」
はぁ。
ただミスドに新発売のもぎたてコーン・デ・リング・エクストラ・エトセトラ(カニ味)を買いに行こうとしてるだけなのに、街に出るとすぐに声をかけられちゃう。
「お〜い、そこのお嬢さ〜ん」
まただよ。しかもこんなおじさんに⋯⋯お前らのためにオシャレしてる訳じゃないっての。
「うちで草むしってかない?」
みんなみんな同じようなことばっか⋯⋯草?
「草?」
「草っていうのはね⋯⋯」
「いや草は分かりますよ。で、草が何ですって?」
「うちの庭の草、むしってかない?」
「ナンパですか?」
「いや、うちの草が伸び放題なんだけど、暑すぎてむしる気にならなくてね」
「いやいや、私これからミスド行かなきゃなんで。こんな炎天下でやったらお化粧崩れちゃいますよ」
「そうだね、ごめんね⋯⋯」
おじさんは悲しそうな顔をしてどこかへ消えていった。
おじさん、やっぱもう歳だから自分でやるのは大変なのかな⋯⋯なんか悪いことしちゃったな⋯⋯
「ねぇねぇお嬢さん」
しばらく歩いたところで、肩を叩かれた。声はよくかけられるけど、いきなり触ってくる人間はそうそういないのでかなりビックリした。
振り向くと、さっきのおじさんがいた。
「うちで扇風機掃除しない?」
「扇風機?」
「扇風機っていうのはこうプロペラがついてて〜ボタンを押すとそれが回って〜」
「扇風機は分かるってば」
「ホコリがすごくてね、風がまともに出ないんだ」
「そうですか」
「これなら家の中で出来るし、汗もかかないよ」
「ヤです」
「しょぼん」
おじさんはまた悲しそうな顔をして消えていった。
悪いことしちゃったな⋯⋯いや、扇風機くらい自分で掃除出来るじゃん。なんで私が罪悪感抱えなきゃいけないのよ。
「お嬢さん!」
後ろから頭を鷲掴みにされた。一瞬ビックリしたけどどうせさっきのヤバいおじさんだろうからダルいけどとりあえず振り向い誰コイツ!?!?!?!?!?
「ぼく握力2300万あるんだけど、このまま握り潰していい?」
「はっ⋯⋯あっ⋯⋯!」
恐怖で声が出ない。
「あれれ〜返事がないなぁ〜?」
「や⋯⋯やめ⋯⋯」
怖い! 私、死んじゃうの?
「返事がないってことはOKってことなのかなぁ〜?」
そう言って男は徐々に力を入れ始めた。
痛い。ミシミシ鳴ってる。誰も助けてくれない。もうダメだ⋯⋯
そう思った時だった。
「やめんしゃい!」
さっきのおじさんが強烈なビンタを繰り出し、男を吹き飛ばした。
「おじさん!」
「怪我は無い?」
おじさん⋯⋯!
「ありがとうございます! 私、こわくってこわくって⋯⋯!」
気づくとおじさんの胸で泣いていた。
「こわかったね」
おじさんはそう言って優しく私の頭を撫でた。
「ところでお嬢さん、うちで食器洗ってかない?」
「食器?」
「食器っていうのはバーベキューとかで使う真っ白な軽〜いお皿で〜」
「紙皿を洗えと!?」
「キヒヒ⋯⋯」
おじさんの後ろから声がする。声質からして卑怯者だろう。またナンパか?
「おねえさん⋯⋯」
現れた男の顔はそれはそれは整っており、見るからに高そうな衣装を着込んでいた。さらに腕には⋯⋯ロレックス!?
「うちで毎日味噌汁作ってかない?」
プロポーズ!?
「行きます!!!!!」
イケメンの金持ちゲットしました!!!
「お嬢さん、うちの食器洗いは?」
「やるわけねーだろバカが!」
なんでナンパで面倒事押し付けてくるんだよコイツは!
「じゃあ行こっか」
「うん♡」
それから私は毎日彼の家に通って、毎朝味噌汁を作り続けた。
結婚とかはしなかった。
ただ毎日味噌汁を作るだけの日々。