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8.

 嬉しそうにクレープを買っていく女子達の顔を、オレンジ色の光が照らす。今日も何事もなく三十分が終わる。

 一日を罪悪感でしめたくなくて、私は口を開いた。

「……話を戻しましょう。文化祭の件でしたね。確かに、生徒会で何か出し物をやろうという話はでています。けれど、私は反対なんです」

「え……、どうして?」

「去年の文化祭を覚えていらっしゃいますか? 去年まで生徒会は、実行委員と協力して、当日の見回りを担当していました。完全に裏方です」

「……うん」

「生徒の自主性を重んじる校風というのは、生徒会活動が活発なことと同じではありません。私が思う生徒会は、様々な行事を主導したりとか、何にでも口を出すようなものではなく、あくまで縁の下の力持ちのような……。簡潔に言えば、生徒会は目立つべきではないと考えているのです」

 今回の予算会議に関してもそうだ。全ては会長の提案から始まった。

 ――愛好会を含め、全ての部へ配分する部費の下限を、大幅に引き上げる。

 どんな弱小部であろうと、まともに活動をするには一定の金額が必要だというのがその理由。

 学校で部費として確保できる財源は毎年ほぼ同じである。相対的に、今まで高額な予算を得ていた部が減額されることになる。そういった不利益を(こうむ)る部を説得するために、私達生徒会役員が走り回ることになったわけだ。

「会長の意見も納得できるところはあります。けれど、生徒会がそこまで強い権限を持つことには反対です。部費の配分に不満があるとすれば、それは各部の部長から発議するべきでしょう。会長は何でもできるから、全部自分でやってしまうのかもしれませんが、それでは周りが会長へ依存するだけです」

 一方、私の場合は萎縮(いしゅく)してしまう。依存するか萎縮するか。二者択一を暗に要求する彼のような存在は、私にとっては目障りでしかない。

 だから、会長とは相容れない関係だと伝えたつもりだったのだが、先輩の反応は違った。

 ゆっくり瞬きをした後、感心したように息をついた。

「そうなんだ……。三澄さんは、やっぱり、すごいね」

「――は?」

「一城と対等に渡り合ってるからさ。俺の場合、引け目とか感じちゃって、張り合おうなんて考えたこともなかった。だから、すごいなって思って」

「同じですよ。すごいことなんてありません。やりたいことをやっているだけです」

「……うん。そう、なんだろうね」

 奥歯に物が挟まったような言い方が、なんだか癪に障る。

 似ているかと思ったが、違ったのかもしれない。似ていないから、イライラするのだ。

 私は、利用できるものは利用する。きれいごとばかり言って何もしない亜樹先輩とは違う。彼は、諦めているだけだ。諦めて、傷つかないための言い訳をしているだけ。

 引け目を感じないなんて、そんなわけがない。会長の側にいて、能力の差を見せつけられるたびに、嫉妬心が渦巻いて息苦しいほどだというのに。

 それでも、私は知っている。そこで足を止めてしまったら、この先何もできなくなる。自己嫌悪の沼に足を取られて、一歩も進めなくなってしまうのだ。

 そんなの、自分の人生なのに、ばかばかしいではないか。

「先輩は、どうなんですか? 自分よりも、もっとうまくできる人がいたら、自分は何もしないんですか?」

 だから私は、無理にでも足を進める。転がり落ちながらでも、走り続けるしかない。

「……ええと……、俺は……」

 亜樹先輩は悄然(しょうぜん)とした面持ちで口をつぐんでしまった。またもや言い過ぎたことに気づく。

 生徒会長の職以外のことで、何を熱くなっているのだろう。こんなことで激情に駆られてしまうなんて、いつもの私らしくない。

「失礼しました。先輩に対して不躾(ぶしつけ)でした。……もう、時間が過ぎてしまいましたね。帰りましょう」

「あ……、うん」

 歩き出すと、ためらいがちに後ろを付いてくる。そして、おそるおそるという風に口を開いた。

「そういえば……。明日はこれ、休みなんだね」

 ああ、そうだった。連日、亜樹先輩と顔を合わせづらくなる対応をしてしまっているので、正直助かる。

「明日は、部活動の予算会議があるんです。生徒会役員は全員出席なので、こちらはお休みさせていただきます」

 もちろん、生徒会のヘルプである亜樹先輩もお休みだ。それは教師陣も了解済みだと聞いている。

 私は、夕陽の沈んだ方角をなにげなく眺めた。

 とうとう予算会議が明日に迫る。

 会長の提案は多数決で可決されるだろう。賛成しなかった部は、当然、不満を抱く。私はそれを待って行動を開始する。

 余計なことに気を取られている場合ではない。明日、会長の解職請求に手が届くかもしれないのだから。

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