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7.

 巡回も三日目。

 沢山のお店が並ぶ賑やかな通りが、本日の巡回スポットだ。

 見回りの手伝い期間は今週の平日のみだ。犯罪を惹起(じゃっき)したいわけではないが、そろそろ成果がほしいところだ。

「え? でも、今回の目的は、犯罪を起こさないようにすることなんでしょ?」

 亜樹先輩は、昨日のやりとりにわだかまりは持っていないようだった。私も普段通りの態度で先輩の正論を無視し、ベンチに座って繁華街を見渡す。

 本日も平和な夕方の光景がそこかしこで展開されている。

 今日一日の義務を果たし、家路につくまでの短い時間。目にとまる人々の表情が緩んでいるのと対照的に、クレープ屋を見つめる先輩の顔は憂いに満ちている。

「先輩。そんなに食べたければとめませんので、ご自由にどうぞ」

「いや、だから、俺だけじゃなくて君も……。これは、一城の指示でもあるんだよ?」

 亜樹先輩はスマホを見ながら困ったように言った。私はそれを意に介することなく鼻を鳴らした。

「だからこそです。会長の意味不明な指示には従えません。どうしてもというなら、理由を合理的に説明して下さい」

「文化祭で、生徒会がクレープ屋をやるかもしれないから、その視察のためだと」

「却下です」

 その後も先輩は、パイナップルの生ジュースはどうか、向こうにはパイナップル激盛りのパンケーキの店があるよと勧めてくる。

 なぜ私がパイナップルに目がないことを知っているのか。

 しかも、土地勘がないと言っていた割にはやけに詳しい。先輩がずっとスマホを見ていることから、それらも全て、会長の指図によるものだと推測される。

 奴め、この状況を面白がり始めたに違いない。しかし、なぜ私のパイナップル好きを知っている。

「うわ、三澄さん! 向こうのワッフル、パイナップルクリームとレモン風味のカスタードクリームを重ねた上に、パイナップルのシロップ漬けを挟んだ超・ふわふわワッフルだって!」

 ――うるさい、黙れ!

「……先輩。すみませんが、よろしければ三秒程そちらをお貸し下さい」

 一言断り、亜樹先輩のスマホを借りる。素早く文章を送信し、彼に返した。

「えっと……、『ねこみみ』とは?」

 私が打ち込んだのはたった四文字。空いた時間を利用してなんとか手に入れた秘密の言葉だ。その不可解な文字列を、先輩は呆気にとられたように見つめている。

「生徒会に代々伝わる隠語(いんご)です。重要事項なので、会長も、こちらに構っている余裕はなくなるでしょう」

 予告通り、会長からの連絡はぴたりと止まった。

 わざわざ先輩のスマホを拝借したかいがあった。私の本気度は十分伝わったようである。が、こんなに効果てきめんなのであれば、もっと重要な事に使えば良かったと内心で悔やむ。

 先輩は謎の単語とおざなりな私の嘘に挟まれてだいぶ困惑していたが、しばらくしてからぽつりとつぶやいた。

「君は……、一城と仲がいいんだね」

 何を言い出すかと思えば。

 その目と耳は節穴か。なぜこの人はこうも神経を逆なですることを言うのだろうか。

 反射的ににらみつけそうになって自制する。

「なぜそんな風に思われるのか、理解に苦しみます。私はあの人を失脚(しっきゃく)させるために署名を集めていると、申し上げたはずですが」

「それは、そうだけど……。でも、信頼されてるっていうか。一城は、君をわざわざ副会長に任命したんだよね?」

「そうですね。大変迷惑なことに」

 断ろうとしたのに、まんまと挑発に乗って言質(げんち)を取られてしまったのだ。今でも思い出す度に頭が痛くなる。

 声を荒げないようにするため、強く息を吐いた。

「逆におたずねしますが、先輩なら、どう思われますか。あんなふうに何でもできる人が身近にいて。……例えば、葉琉先輩とか」

「――っ」

 亜樹先輩が息を呑んで私を見つめた。しかし、傷ついたような顔をしたのは一瞬で、すぐに何でもなさそうな表情を上書きする。やはり、慣れているのだろう。

 だが、言いすぎた。取り繕い慣れた先輩が思わず感情を(あらわ)にしてしまうほど、傷つけてしまう言葉だった。

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